仙台市若林区の診療所  医療法人社団太陽会 仙台在宅支援たいようクリニック 【訪問診療・往診・予防接種】
ホーム > 院長ブログ・診療日誌

院長ブログ


 第161話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待 パート3
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

前回まで、緑茶に含まれるカテキンが新型コロナウイルスに効果がある可能性と、インフルエンザや上気道炎などのウイルス性感染症の発症を予防する効果について述べました。

 

今回は、細菌感染症に対する効果について触れてみたいと思います。

 

●緑茶の歯周病に対する効果

緑茶の細菌感染症に対する効果の中でも、最も報告が多いものが歯周病に対する効果です。

 

以下は、外国の二重盲検無作為比較対照試験です。

研究チームは、歯周病を持つ3040歳の45人の成人を、緑茶を含んだガムで115分間、12回噛む群(緑茶群)と、緑茶を含まないガムを同じ頻度で噛む群(プラセボ群)に分けて、7日後、21日後の歯肉出血指数(SBI)、プラーク指数(API)について調査した。また、21日後にそれぞれの群で歯周病の炎症に深く関わっているとされるサイトカインIL-1βの唾液中の濃度を測定した。

その結果、緑茶群はプラセボ群に比べて、1〜7日、121日、721日のいずれの期間においても、SBIAPIの両指数で有意に減少幅が大きかった。まだ、唾液中のIL-1βは、緑茶ガム群で21日後に有意な減少を示したが、減少幅は両群で有意な差を認めなかった。

 

以下は、日本の横断研究です。

研究チームは、49歳から59歳までの日本人940人について、1日に緑茶を飲む回数と、検査器具を使った診察で、歯周ポケットの深さ(PD)、臨床的アタッチメントロス(歯肉と歯が接触していない距離:AL)、出血(BOP)の各指標について調査した。その結果、様々な因子を調整しても、緑茶を1杯飲むごとに平均PD0.023o低下、平均AL0.028o低下、平均BOP0.63%低下が認められた。

 

緑茶が歯周病に対して抑制的に働く理由ですが、カテキンが歯周病の主要な細菌であるジンジバリス菌、プレボテラ菌の増殖を阻害すること、ジンジバリス菌の人の頬粘膜上皮細胞への接着や毒素の産生を抑制すること、炎症に関わっているサイトカインを抑制すること、骨芽細胞や骨髄に作用して骨破壊を抑制することなどが考えられています。

 

●緑茶の肺炎に対する予防効果

以下は、日本で行われた大規模な観察研究です。

研究チームは、19079人の男性と21493人の女性に対し(年齢は40歳〜79歳)、1日に緑茶を飲む回数と肺炎による死亡について12年間追跡して調査を行った。

その結果、女性では11杯未満の群に比べて、112杯、134杯、15杯以上の群では、飲む量が増えるほど肺炎による死亡が低下していた(調整ハザード比はそれぞれ0.590.550.53)。しかし、男性では、喫煙を含めた様々な因子を調整しても有意な差が認められなかった。

 

この研究では、肺炎の原因となった病原体については調査されていないのですが、中高年以上の年齢を対象としているので、おそらく何らかの細菌性肺炎が原因と思われます。また、70歳以上と70歳未満に分けて解析を行っていますが、いずれの年齢層においても緑茶の予防効果が認められています。男性に対する予防効果が認められなかった点は残念ですが、はっきりとした原因は不明でした。

 

●緑茶の尿路感染に対する効果

以下は、外国の二重盲検無作為比較対照試験です。

研究チームは、急性膀胱炎と診断された健康な閉経前女性107人(年齢は18歳から50歳)を、抗菌薬(ST合剤480mgを12回内服)と緑茶成分2000rを含むカプセルを就眠前に併用する群(緑茶群)と抗菌薬と緑茶を含まないカプセルを併用する群(プラセボ群)に分けてその後3日間の膀胱炎症状の有無を調査した。

その結果、1日後の膀胱炎症状は、緑茶群61%、プラセボ群74%、2日後の膀胱炎症状は、緑茶群34%、プラセボ群67%、3日後の膀胱炎症状は、緑茶群2%、プラセボ群63%でそれぞれ認められ、緑茶群で有意に症状の改善が示された。また、6週間後の再発も緑茶群で少なかった。

 

尿中に排泄されるエピガロカテキン(EGC)の90%は飲んでから8時間以内に排泄されるそうで(エピガロカテキンガレート(EGCG)は尿中にほとんど排泄されないようです)、この研究ではトイレの回数が少なく膀胱内に蓄尿しやすい就眠前にカテキンを飲むと効果的ではないかと述べています。

 

緑茶のカテキンは、様々な機序により様々な細菌の増殖抑制作用が示されていますが、以下のように、この作用を利用した抗菌薬との相乗効果が示されています。

細菌細胞膜の合成抑制(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系抗菌薬)

細菌たんぱくの合成抑制(マクロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系抗菌薬)

細菌核酸合成抑制(キノロン系抗菌薬、メトリニダゾール)

 

以上、緑茶の細菌感染症に対する効果について触れましたが、以前、「口腔ケアの可能性」でも触れた通り、中でも歯周病の予防や治療は、ウイルス感染症の予防や、心臓疾患や脳血管疾患を始めとした慢性疾患の予防につながることを考えると、歯周病対策における口腔ケアの一手段として緑茶を効果的に利用したいものです。

 

今回、緑茶への期待と題して3回に分けて書いてきましたが、印象に残ったのが、お茶の本場である静岡県発の研究が非常に多かったことです。

 

郷土の特産品を、研究を通して日本国内だけでなく世界に向けてアピール(自慢)できるなんて素晴らしいですね。

 

緑茶は日本が誇る超健康食品です。日本人でありながら緑茶には無縁だなんて、なんともったいない気がします。

 

新緑の季節となりましたが、食卓も大いに緑に染めようではありませんか!


2020年5月2日(土)

 第160話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待 パート2
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


前回に引き続き、緑茶に含まれるカテキンによる感染症の予防効果についてです。

 

今回は、飲んだカテキンが体内でどのように吸収・代謝されるのかという点と、風邪やインフルエンザに対してどれくらいの予防効果があるのかという点について書いていきます。

 

●飲んだカテキンの吸収・代謝

前回書いた通り、緑茶に含まれるカテキンには、エピガロカテキンガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピカテキン(EC)4種類あり、中でもEGCGは最も主要な、最も生理活性が強いカテキンです。

 

ある実験によると、健常者が緑茶1杯を飲むと、12時間後には血液中の遊離型(活性型)EGCGの濃度が最大になり、その後、速やかに低下し12時間後にはほとんど血中から消失します。

 

おそらく、消化管からのカテキンの吸収量は摂取量の5〜8%で、血中に移行するものは2%程度と見積もられています。

 

胃を含む小腸で吸収されたカテキンは、肝臓で他の物質と結合し安定した形に変化(抱合化と言います)し、最終的には便(胆汁から)や尿として排泄されますが、EGCGは抱合化を受けない遊離型として、生理活性の強い状態で体内に存在できるようで、マウスへの投与実験では全身の幅広い組織に移行することが確認されています(この点に詳しい方がいらしたら教えてください)

 

●緑茶を飲むことと風邪の予防効果

以下は、日本で行われた無作為化比較試験(二重盲検ではない)です。

健常な270人のヘルスケアワーカー(平均約43歳)を、高用量のカテキンを飲む群(57rを13回)、低用量のカテキンを飲む群(57rを11回)、カテキンを飲まない群(プラセボ群)に分けて12週間、上気道炎の罹患について調べた研究では、上気道炎の罹患率は、プラセボ群で26.7%、低用量群28.2%、高用量群13.1%で、高用量群で有意に上気道炎の罹患率が少なかった(プラセボ群に対するハザード比0.46

 

●緑茶を飲むこととインフルエンザ予防効果

日本で行われた観察研究です。

6〜13歳の小学生2050人を対象に、1日何杯(1200ml)の緑茶を飲むのか質問し、緑茶を飲む回数とインフルエンザの罹患率について調査した研究では、113杯未満、35杯飲む群では、11杯未満の群に比べて有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比はそれぞれ0.620.54)。また、1週間に6日以上飲む群は、3日未満の群に比べて有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比は0.60)。

 

日本で行われた二重盲検無作為化比較試験です。

健常なヘルスケアワーカー197人(平均約43歳)を対象に、1日カテキン378r+テアニン210r(テアニンも緑茶に含まれる成分)を飲む群と、飲まない群(プラセボ群)に分けて、5か月間インフルエンザの罹患率について調べた研究では、インフルエンザの罹患率は、プラセボ群13.1%に対しカテキン+テアニン群4.1%で、カテキン+テアニン群で有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比0.25

 

●緑茶をうがいすることとインフルエンザ予防効果

複数の報告がありますが、緑茶のうがいはインフルエンザの予防効果があったとする報告と、予防効果は認められなかったとする報告があり、相反する結果となっています。以下は、それらの研究を統合したメタアナリシスという日本の研究の結果です。

 

緑茶のインフルエンザの予防効果について調べた5つの研究(16歳〜83歳の1890人)を集めて解析すると、緑茶によるうがいはインフルエンザ感染症のリスクを有意に低下させていた(相対危険度0.7)。

 

以上をみていくと、緑茶(カテキン)の風邪やインフルエンザに対する予防効果は、飲む量と回数が増えると(理想的には毎日13杯以上)、高まることが示されています。

 

この理由の一つとして、先に書いた通り、カテキンを単回飲んだだけでは血中に移行する割合が低いことや、血中に移行しても遊離型カテキンの濃度は速やかに低下し、組織に留まる時間が短いことが関係しているように思います。

 

メタアナリシスの結果でも、緑茶のうがいによるインフルエンザの予防効果が示されていますが、その効果は、メタアナリシスに含まれている個々の論文を見ても緑茶を飲むよりも低いという結果でした。また、このメタアナリシスでは、研究や対象者の数がバイアス(研究結果を間違った方向に誘導させるような因子)を否定するためにまだ不十分なようです。

 

カテキンによる感染症の予防効果というのは、口腔内や咽頭粘膜に残った成分による直接的な効果と、消化管から吸収され組織に移行した成分による間接的な効果があるように思えますが、カテキンの感染症以外の多彩な効果(抗酸化作用、抗アレルギー作用、コレステロール低下作用、抗腫瘍作用など)を考えると、うがいをするよりも、こまめに飲んだ方がその多彩な効果を引き出すことができるのではないでしょうか。

 

また、日常生活では、うがいができる場所は限られ、接触感染に注意しながらペットボトルでこまめに緑茶を飲む方が実用的です。

 

今回は、緑茶(カテキン)と風邪やインフルエンザによるウイルス感染症との関係について書きましたが、実験室レベルでは、このほかにも様々なウイルス(B肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、HIVウイルス、デング熱ウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス・・・)対するカテキンの抗ウイルス作用が報告されています。

 

これを書いているうちに、緑茶を飲みたいという欲求がふつふつと沸き上がってきました。

 

最近は、家族にしつこく緑茶を勧めるので、煙たがられてソーシャルディスタンスを維持している私です。

 

次回は、緑茶(カテキン)と細菌感染との関係について取り上げたいと思います。


2020年4月29日(水)

 第159話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談などは行っておりませんので、どうかご了承下さるようお願い申し上げます。

 

緑茶に含まれるカテキンが、ウイルスの表面たんぱくに結合して病原性を阻害して抗ウイルス作用を持つことは知られていますが、新型コロナウイルスに対しても効果があるのかいまだ実証はされていません。

 

しかし、このほど、分子ドッキング法というコンピューターを使った解析で、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用が期待されている、カテキンを含む18種類の食品成分を検証した研究結果が発表されました。

 

分子ドッキング法とは、病気と関係しているたんぱくの分子(標的分子)と薬として候補になる成分分子(リガンド)の結合性を理論と計算によって予測する手法で、創薬(新しい薬を開発するために行われる一連のプロセス)の研究に用いられています。

 

以下に研究の概要を示します。

 

インドERA大学の研究チームは、データバンクに登録されているたんぱくの中で、新型コロナウイルスの病原性・増殖性に関与していると考えられる7種類の表面たんぱくの分子構造と、登録されている18種類の食品成分の化学構造をもとに、ウイルス表面たんぱくと各成分の結合部位、結合後の分子の立体構造や安定性、その親和性などをコンピューター解析し、治療薬候補になる食品成分を分析した。また、新型コロナウイルスの治療候補薬として挙げられているレムデシビル(エボラ出血熱の治療薬として開発され新型コロナウイルスの治療薬候補の一つ)、クロロキン(マラリアの治療薬で新型コロナウイルスの治療薬候補の一つ)と比較を行った。

 

その結果、この18種類の食品成分のうち、緑茶に含まれているエピガロカテキンガレート(EGCG)は、7種類の新型コロナウイルス表面たんぱくのすべてに最も高い結合親和性(結合してその活動を阻害する力)を示し、抗ウイルス効果がもっとも期待できる成分と考えられた。

 

また、研究の結果、以下のようにEGCGを含む9種類の成分が、新型コロナウイルスの有力な治療薬候補として挙げられた(カッコ内はこの成分を含む食品)。これらは、いずれもレムデシビルやクロロキンよりも高い親和性を有していた。

 

EGCG(緑茶)

2クルクミン(ウコン)

3アピゲニン(カモミール茶、パセリ、セロリ)

4ベータグルカン(オート麦の食物線維、きのこ)

5ミリセチン(パセリ、オレンジ)

6ケルセチン(赤玉ねぎ、リンゴ、ブロッコリ、かんきつ類)

7ピペリン(黒コショウ)

8ゲニステイン(大豆)

9ジアゼイン(大豆)

 

また、新型コロナウイルスは、ヒトの細胞の表面にあるACE-2受容体を介して感染しますが、私がこの研究で最も注目したのは、EGCGは、ACE-2受容体に結合するウイルスの突起たんぱくへの結合力が最も強く、最も強力な阻害作用を持つ可能性を示した点です。

 

この論文で推奨しているEGCGの飲み方です。

1800mg

●沸騰した湯で3分間お茶の成分を抽出する(80℃の湯で入れるとEGCGの抽出がもっとも高いとのこと)

134回に分けて4.5時間間隔で飲む(熱いので、冷ましながら飲んでもOKだと思います)

 

ちなみに、日本カテキン学会によれば、緑茶から抽出されるカテキンの種類とその割合は、エピガロカテキンガレートEGCG59.1%)、エピガロカテキンEGC19.2%)、エピカテキンガレートECG13.7%)、エピカテキンEC6.4%)となっており、EGCG4種類のカテキンの中でも主成分となっています。

 

この論文は、まだ査読(ほかの研究者により研究方法や解析方法などを吟味される過程)を受けていない段階にあることと、あくまで理論とコンピューター上の解析結果に基づくものなので注意が必要ですが、カテキンは新型コロナウイルスに対する治療や予防の選択肢として大きな期待が寄せられています。

 

皆さんの中には、濃い緑茶の苦みや熱いものは苦手という方もいるでしょう。

 

そんな方は、あまり難しく考えないで、粉末の緑茶を使って濃度、量、温度を思い思いに調整して味わってみてはどうでしょうか?

 

これを機に、緑茶を楽しんでみませんか?

 

次回は、カテキンの人体での吸収と代謝、臨床試験で明らかになっているその他の感染症の予防効果について触れたいと思います。


2020年4月25日(土)

 第158話 新型コロナウイルスに備えるために−よく噛んで食べよう!パート3
投稿:院長

※このブログの内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


外出の自粛で、自宅の中で過ごす時間が増えていますが、そんな中でも健康的な生活ができるよう、自宅で誰でもできる健康法について触れたいと思います。

 

よく噛んで食べよう!の第3回目は、噛むことが認知機能や精神面に与える効果について紹介します。

 

●噛む機能と認知症との関係について

これについては、数多くの研究結果が報告されていますが、高齢者の歯の本数と認知症との関連を調べたものが多いです。その中で代表的な報告を紹介します。

 

65歳以上の日本人高齢者4425人を対象に、歯のケア状況(残歯の数、義歯の使用状況、咀嚼機能、かかりつけの歯科医の有無、セルフケアの有無)とその後の認知症発症について、4年間にわたって調査した研究では、残歯が少なくかつ義歯を持たないこと、かかりつけの歯科医の不在なことが認知症発症のリスクであった(調整ハザード比はそれぞれ1.851.44)。

 

日本人の高齢者2335人を対象に、残歯の数とその後の軽度認知機能障害の発症について5年間にわたって調査した研究では、歯を1本失うごとに軽度認知機能障害のリスクが高くなり(1本あたりオッズ比1.02)、歯をすべて失うと2532本の歯が残っている場合に比べて有意に軽度認知機能障害に進展しやすいことが示された(オッズ比2.39)。

 

この他、歯をすべて失っても、義歯と義歯が外れないようなインプラントを取り付けると咀嚼力が増し、その後の認知機能のスコア(MMSE)が改善することが報告されています。

 

また、脳MRIなど画像検査を使った研究では、咀嚼すると大脳皮質の血流が増え、体性感覚、補足運動野、島皮質、線条体、視床、小脳という運動や感覚に関係する脳の重要な部分が活性化することが明らかになっています。

 

この他、噛むことが記憶をつかさどる海馬をはじめとした脳の様々な領域と関連していることが数多く報告されています。

 

●噛むことと精神状態の変化について

精神状態との関係では、ガムを噛むことが精神状態にどのような影響を与えるのか調査した研究が数多く報告されています。

 

英国の研究では、101人の対象者に対し、ガムを噛むことが精神状態にどのような影響を与えるのか調査した。その結果、一定時間ガムを噛むと、仕事や仕事以外のストレス、疲労、不安、憂うつが軽減して気分が前向きになり、仕事と仕事以外のパフォーマンスが向上した。

 

英国の研究では、30人の対象者に対し、20分間の複数のストレスを与えて、その前後の唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)、主観的なストレス、不安、落ち着き、満足感、注意力を調べた。その結果、ガムを噛むと噛まない場合に比べて唾液中のコルチゾールの分泌と主観的なストレスが減少した。

 

その他、ガムを噛むと集中力や注意力が増すことも報告されています。

 

●噛むことと痛みの変化について

セロトニン神経は、痛みの伝導を抑制する働きに関係しているが、日本の研究では、被検者に対して足の腓腹神経に電気刺激を与えて痛みを誘発し、20分間ガムを噛むと(噛まない場合に比べて)、痛み反射、主観的な痛み、血漿セロトニンの濃度がどのように変化するか調べた。その結果、ガムを噛み始めた5分後から、痛みの面積と主観的な痛みが減少し、ガムを噛み終わるまでその効果が持続した。セロトニンレベルは、ガムを噛み終わった直後から上昇し、30分後にもとのレベルに戻った。これは、ガムを噛むことにより増えた脳内のセロトニンが、脳血管関門にあるセロトニントランスポーター(出入りを制御するたんぱく)を介して血液中に分泌されているものと考えられ、活性化したセロトニン神経が痛みの抑制に働いていることが示唆された。

 

ペンフィールドのホムンクルスといって、大脳の運動と感覚をつかさどる領域のうち、どの部分が身体のどの部分に対応しているのか示した有名な脳地図があるのですが、これを見ると口腔や顔面の領域だけで全体の約50%!という大きな割合を占めていることがわかります。

 

口腔や顔面というのは、とても多くの脳神経と関連しているのですね。

 

ガムは虫歯の原因になるのでは?と考えてしまうのですが、最近はキシリトールが配合されている数多くの商品(トクホに認定されている商品もあり)が発売されています。

 

キシリトールは天然由来の甘味料ですが、砂糖のように歯を溶かす酸を産生することがなく、虫歯の原因菌であるミュータンス菌の活動を阻害する働きがあり、虫歯の予防効果が期待できます。

 

ただ、専門家の話では、90%以上配合されたものでないと虫歯の予防効果がないこと、食べ過ぎると下痢を引き起こすので注意が必要だそうです。

 

某メーカーの宣伝ではありませんが、毎日20分間の「お口の恋人」はいかがでしょうか?



2020年4月21日(火)

 第157話 新型コロナウイルスに備えるために−新たな知見をもとに感染対策を再考する
投稿:院長

※このブログの内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

3月中旬以降、新型コロナウイルスの感染様式に関する研究結果が次々と報告されていますが、新しい知見をもとに感染対策を再考してみました。

 

【新型コロナウイルス感染症患者を治療する病棟内のウイルスをPCR検査で調べた研究】

410日にEmerging Infectious Disease Journalに掲載された論文より。

新型コロナウイルス感染症患者を治療する中国の病棟内で、空気中と器具表面のウイルスの有無をPCR検査で調査した。

 

ICUでの空気中のウイルスPCR陽性率は、患者の頭部から1m離れている通気口の出口35.7%、患者の頭部から1m離れているベッド周辺44.4%、患者の頭部から4m離れている医師の事務作業空間(室内の気流の上流に位置)12.5%であった。

 

器具表面でのウイルスPCR陽性率は、コンピューターマウス75%、ゴミ箱60%、ベッドの手すり42.9%、患者のマスク40%、ドアノブ8.3%、医療スタッフの手袋25%、医療スタッフの袖16.7%、医療スタッフのシューズの底50%であった。

 

PCR陽性が必ずしもウイルスの感染力を反映したものでない点に注意が必要ですが、この調査からわかることは、@新型コロナウイルスはエアロゾルを介して、気流の上流であっても4mの距離を移動しうること、Aしたがって、2m以内でしか感染しないものを飛沫感染、2m離れても感染するものを空気感染(飛沫核感染)と定義すると、新型コロナウイルスは空気感染を起こす可能性があること、B人が共用する器具(コンピューターマウスなど)やごみ箱のウイルス陽性率が高いこと。

 

【エアロゾル中の新型コロナウイルスの感染性を調べた研究】

317日にNew England Journal of Medicineに掲載された論文より。

気温2123℃、湿度65%の環境下で、ネブライザーを使って人為的に新型コロナウイルスを含むエアロゾルを密閉した円筒内に発生させ、経時的に空気中に含まれるウイルス量(感染価)を調査した。その結果、経時的にウイルス量の減少は見られたものの、3時間後にも感染価が維持されていた。

 

この研究からわかることは、@密閉した空間では、ウイルスは3時間空気中を漂い感染力を維持する可能性があること。

 

【サージカルマスクの効果を調べた研究】

43日にNature Medicineに掲載された論文より。

気道症状がありPCR検査でコロナウイルス(新型ではなく風邪の原因である季節性コロナウイルス)が陽性となった17人の患者を、サージカルマスク(※)を着用した群とマスクを着用しない群に分けて、30分間、呼気中に含まれる飛沫(5㎛以上の大きさと定義)とエアロゾル(5㎛未満の大きさと定義)に分けて分析し、それぞれでウイルスが検出されるか調査した。患者は30分間に平均17回の咳をした。

 

※サージカルマスクとは、医療従事者が一般的に着用する不織布マスクで、現在、家庭用として出回っている不織布マスクもかなり高品質なものが出てきているようです。

 

以下に結果を示す。

マスクをしない群では、30%(3/10)の飛沫、40(4/10)のエアロゾルからコロナウイルスが検出された。

一方、マスクをした群では、飛沫からも、エアロゾルからもウイルスが全く検出されなかった(いずれも0/11)。

 

新型コロナウイルスを実験対象としたものではないという点に注意が必要ですが、この実験からわかることは、@コロナウイルスに感染した人がマスクを着用すると、高い拡散防止効果が期待できる可能性があること、Aコロナウイルスは飛沫だけでなく、呼気中のエアロゾル中にも含まれうること、Bマスクをしない場合でも、すべての飛沫やエアロゾルにウイルスが含まれているわけではなく、他人へ感染を起こすためには長時間にわたる濃厚な接触が必要である可能性が高いこと。

 

【新型コロナウイルスが、様々な環境下でどこまで感染力を維持できるか調べた研究】

42日にThe Lancet Microbeに掲載された論文より。

●気温と感染力の持続時間

一定の濃度のウイルスを含む検体を様々な気温下におき、どこまで感染力を維持できるか14日間にわたって調べた。以下に結果を示す。

気温が4℃では、14日後まで感染力を維持。

気温が22℃では、7日後まで感染力を維持。14日目に感染力が消失。

気温が37℃では、1日後まで感染力を維持。2日目に感染力が消失。

 

●材質の違いによる感染力の持続時間

室温22℃、湿度65%の環境で、一定の濃度のウイルスを含む少量の液体を各物質の表面に滴下し、材質の違いによりどこまで感染力を維持できるか7日間にわたって調べた。以下に結果を示す。

コピー用紙とティッシュペーパーでは、30分後まで感染力を維持。3時間後に感染力が消失。

木材と布では、1日後まで感染力を維持。2日目に感染力が消失。

ガラスと紙幣では、2日後まで感染力を維持。4日後に感染力が消失。

ステンレスとプラスチックでは、4日後まで感染力を維持。7日後に感染力が消失。

サージカルマスク内側では、4日後まで感染力を維持。7日後に感染力が消失。

サージカルマスク外側では、7日後まで感染力を維持。

 

●消毒液による効果

室温22℃の環境下で、一定濃度のウイルスを含む少量の液体を一定量の各消毒液に滴下し、消毒液の違いにより、どこまで感染力を維持できるかを調べた。以下に結果を示す。

家庭用漂白剤(次亜塩素酸のことか?)50倍希釈、家庭用漂白剤100倍希釈、ハンドソープ液50倍希釈、70%消毒用エタノール、0.1%ベンザルコニウム塩化物液で調べた結果、ハンドソープ液のみ、一部の検体で5分後に感染性が維持されていたが、それ以外はすべての消毒液で5分後には感染力を失っていた。ちなみに、人体の消毒に用いられる7.5%ポピヨンヨードや0.05%クロルヘキシジンも同様に有効であった。

 

この実験からわかることは、@新型コロナウイルスはインフルエンザとは異なり、22℃、50%以上の環境下でも長時間感染力を維持すること、A特にプラスチックなどの表面が滑らかな材質では長時間感染力を維持すること、Bサージカルマスクに付着したウイルスは長時間感染力を維持すること、C身の回りにある消毒液は有効なこと。

 

【最近の研究から見えてくる感染対策】

●空気感染・飛沫感染対策

@新型コロナウイルスは長時間空気中を漂って、2m以上の距離でも空気感染するという前提に立ち、密閉、密集、密接の一つでも当てはまる場所は極力避けましょう!

A温暖化による終息を期待せず、むしろ温暖になることを利用して積極的に窓を開けて換気しましょう!(部屋だけでなく車の窓も開けましょう)

BWHOは感染していない人のマスク着用を推奨していませんが、無症状感染者の多い新型コロナウイルスの場合は、自分も感染しているかもしれないという前提に立って、誰でも積極的にマスクを着用しましょう!


●接触感染対策

C消毒していないマスクの使いまわしは絶対に避けましょう!

D消毒液を使って、特にプラスチックなどの滑らかな器具の接触面を消毒しましょう!(ゴミ箱やマウス・タブレットも忘れずに消毒しましょう)

 

※このブログの内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


2020年4月16日(木)

 第156話 新型コロナウイルスに備えるために−よく噛んで食べよう!パート2
投稿:院長

前回に引き続き、健康的な食生活を送るために、よく噛んで食べる大切さについて触れたいと思います。

 

●食事を30回咀嚼する根拠は?

130回噛みましょう」と聞くことが多いのですが、30回という数字はどこから来ているのでしょうか?

 

咀嚼というのは食事を噛み砕いて、唾液と混ぜ合わせるという一連の作業ですが、咀嚼が進むと食片の間のスペースが狭くなり、そのスペースに唾液が隙間なく入り込むと食片が密になり(この働きには唾液中のムチンという成分が欠かせません)、しっかりとした食塊ができて飲み込みやすい状態となります。このしっかりとした食塊の度合いを「凝集力」と表現するそうですが、咀嚼が多すぎると唾液が過剰となって凝集力が低下するので、適度な咀嚼回数が求められることになります。

 

日本咀嚼学会では、食片を土に例えて、乾燥した土は塊を形成しませんが、水を含むと塊を作りやすくなり、逆に水が多すぎると崩れやすくなってしまう、とわかりやすく表現しています。

 

ということで、香港大学の研究者が、どんな食品にも最適な咀嚼回数があると予測して実験し、1997年に報告しています。

 

彼らは、生のニンジンとナッツという全く別の食物を使って実験したところ、生のニンジンで平均31回、ナッツで25回咀嚼すると凝集性がピークになることを明かにしました。

 

この数値は、すべての食品に当てはまらないかもしれませんが、古くから言われてきた30回という数字の根拠を初めて示した研究になるのかもしれません。

 

●咀嚼回数の肥満予防効果

一口の食事を35回咀嚼した群と、10回咀嚼した群で比較した研究では、35回咀嚼すると食事時間が2倍になったにも関わらず、満腹と感じるまでの食事量が減少したことが示されています。

 

その他、早食いが肥満と強く関係していることが多数の論文で報告されています。

 

しかし、実際に咀嚼回数を増やすと肥満の予防や改善につながるのか、まだ十分に明らかにされていないようで、今後の研究が待たれるところです。

 

●咀嚼力と糖尿病の関係

40歳から74歳の成人6827人を対象に、咀嚼力(咀嚼力に応じて4つのグループに分ける)と糖尿病のリスクを調べた日本の観察研究は、咀嚼力が最も強い群では、最も弱い群に比べて糖尿病のリスクが男性で47%、女性で44%低下することが示されています。

 

●咀嚼力とメタボリック症候群の関係

50歳から70歳の成人1780人を対象に、咀嚼力(咀嚼力に応じて4つのグループに分ける)とメタボリック症候群のリスクを調べた日本の観察研究は、咀嚼力が最も強い群に比べて、弱い他の3つの群でメタボリック症候群のリスクが1.211.46倍に増加することが示されています。

 

咀嚼回数や咀嚼力が、これら人の代謝に与える効果について、@咀嚼力のある人は、血糖の上昇を緩やかにする食物繊維の摂取量が増える傾向にあること、A普段から咀嚼の回数が多くて固いものを食べていると食後の熱の産生が促されること、B咀嚼回数が多いと早食いを予防し、食欲を抑えるレプチン、ヒスタミン、GLP-1などのホルモンの分泌が促されること、などがその主な要因として考えられています。

 

●咀嚼力と死亡率の関係

65歳以上の高齢者1405人を7年間追跡した日本の観察研究は、自己評価で咀嚼能力の低い人は、有意に死亡率が有意に高かったと報告しています(調整ハザード比1.63

 

また、65歳以上の高齢者4425人を4年間追跡した日本の観察研究は、残存歯が20本以上の人に比べて19本以下で食べにくい食事のある人は、心血管性疾患、呼吸器系疾患による死亡率がいずれも有意に高かったと報告しています(それぞれ調整ハザード比は1.831.85)。

 

以上、日本人による咀嚼に関連した研究はとても多く、日本は「咀嚼研究大国」と言ってよさそうです。

 

グルメ番組で、レポーターが発する「柔らかくておいしい〜」とか「まろやかな味わいですね〜」という言葉に共感するのではなく、咀嚼研究大国に住んでいる日本人として「噛み応えがありますね〜」という言葉に強く共感できるようになりたいものです。

 

この機会に、食事内容だけではなく「食事作法」について改めてみませんか?

 

次回は、咀嚼と認知機能や精神状態の関係について触れてみたいと思います。


※ここに掲載された内容について、電話による個別の相談などは

行っておりませんので、ご了承下さるようお願い申し上げます。


2020年4月14日(火)

 第155話 新型コロナウイルスに備えるために−よく噛んで食べよう!
投稿:院長

外出の自粛で、自宅で過ごす時間が増え、運動不足と重なり食生活にも気を遣うことがあるかと思います。

 

そこで、同じ食事を食べるにしても、もっと健康的に食べる方法はないだろうかと考えみたところ、やはり「一口一口よく噛むこと」が大切ではないかと感じました。

 

戦前の日本人は、一食につき1465回噛み、22分かけて食事をしていたそうですが、現代の日本人は一食につき620回に減少し、所要時間はわずか11分だそうです。

 

昔は「よく噛んで食べなさい」と言われたものですが、今は食感やのど越しが重視され、さほど噛まなくてもおいしく飲み込めてしまうような食べ物が流行し、噛むことを重視しなくなった気がします。

 

食事を噛んで飲み込むまでの一連の動作を「咀嚼(そしゃく)」といいますが、咀嚼にはどんな効果があるのでしょうか?

 

【咀嚼が口腔内の免疫に果たす役割】

最近の研究では、噛むことにより歯肉にかかる機械的な圧力がきっかけとなり、Th17細胞というリンパ球が増え、口腔内の免疫を活性化するメカニズムが明らかになりつつあります。このTh17細胞が、さまざまなサイトカインを分泌して白血球を活性化・動員したり、抗菌作用のあるたんぱく質の分泌を促進して、口腔内の感染に対する司令塔のような役割を果たします。

 

しかし、IL17細胞は、歯周病の原因となる代表的な細菌であるジンジバリス菌などに対して過剰反応を起こすと、周辺の骨破壊や関節リウマチの発症にも関係することが明らかにされつつあります。

 

したがって、IL-17細胞を味方につけるためには、しっかりと歯周病のケアを行いながら健全な咀嚼刺激を与え続けることが大切になります。

 

【唾液や咀嚼により分泌が促させるホルモン】

よく噛んで食べると唾液の分泌が促されますが、唾液中の成分や噛むことで分泌が増えるホルモンの中で、私達の健康に欠かすことができないものについて整理したいと思います。

 

●歯の修復に働く唾液成分

スタテリンは、虫歯により腐食されたエナメル質を修復(再石灰化)する働きがあります。

 

●消化を助ける唾液成分

ムチンは、食塊を包み込む働きがあり、アミラーゼはでんぷんを糖に分解する働きがあります。


●味覚を助ける唾液成分

ガスチンは、亜鉛と結びついて舌の味覚をつかさどる味蕾(みらい)細胞を刺激します。

 

●口腔内の免疫に関わる唾液成分

リゾチームは、細菌の壁を分解する働きがあります。

ラクトフェリンは、ウイルスやピロリ菌と接着する働きがあります。

IgAは、粘膜に分泌されている抗体で、ウイルスなどを中和する働きがあります。

 

●発がん物質の抑制に関わる唾液成分

ラクトペルオキシダーゼやカタラーゼは、食事中の発がん物質や活性酸素を30秒で中和する働きがあります。

 

●脳の機能に関わるホルモン

時間をかけてよく噛むと、十二指腸からコレシストキニンが分泌され、脳の短期記憶をつかさどる海馬の活性化させます。また、咀嚼に関わる筋肉の規則的な運動は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの分泌を促し、リラックス効果を引き出します。

 

●肥満の予防に関わるホルモン

時間をかけてよく噛むと、脂肪細胞からレプチンの分泌が促され、脳の満腹中枢に作用して食欲を抑制したり、脂肪細胞の分解を促進します。

脳内からヒスタミンの分泌が促され、脳の満腹中枢に作用し食欲を抑制します。

 

●糖の代謝に関わるホルモン

時間をかけてよく噛むと、GLP-1などの消化管ホルモンが分泌され、血糖値を低下させます。

 

ここに挙げたものは代表的なものですが、それにしても唾液というのは様々な働きがあるものです。たった1回の食事でも、よく噛んで食べないともったいない気がしませんか?

 

次回は、実際に、咀嚼の回数や咀嚼機能が人の健康にどのような影響を与えているのか、様々な臨床研究の結果について触れてみたいと思います。


※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談などは行っておりませんので、ご了承下さるようお願い申し上げます。



2020年4月10日(金)

 第154話 感染症に対する解熱剤の使用について(改変)
投稿:院長

3月6日に、感染症に対する解熱剤について書いたのですが、関心が高く、もう一度、新たな知見も加えて整理してみました。

 

ここでは、熱を下げる方法として、1)クーリングを行う、2)アセトアミノフェン(カロナール、アンヒバなど)を使用する、3)非ステロイド系消炎鎮痛薬NSAIDs(ロキソニン、ボルタレンなど)を使用する、に分けて考えたいと思います。

 

●重症感染症の患者に対するクーリング 

敗血性ショックの患者200人に対して、積極的にクーリングを行った群と行わなかった群に分けて行われた二重盲検ランダム化比較試験では、積極的にクーリングを行うと、行わなかった群に比べて14日後の死亡率が有意に低下したと報告されています(死亡率はそれぞれ19%と34%)。

 

日本と韓国の病院の集中治療室に入院した敗血症の患者(細菌学的に診断された患者と、臨床的な基準を満たした感染症の患者が含まれる)606人に対する観察研究では、クーリングは患者の経過に影響を与えなかったと報告されています。

 

●重症感染症の患者に対する解熱剤

先の606人の敗血症患者に対する観察研究では、敗血症患者にNSAIDsまたはアセトアミノフェンを使用した場合、28日後の死亡率がいずれも増加したと報告されています(調整オッズ比はそれぞれ2.612.05)。

 

集中治療室に入室している重症感染症の患者700人に対してアセトアミノフェンを使用した群と使用しない群に分けて行われた二重盲検ランダム化比較試験では、アセトアミノフェンの使用は、患者の経過に影響を与えなかったと報告されています

 

●インフルエンザの患者に対する解熱剤

厚生省の研究班が、小児のインフルエンザ脳炎・脳症とジクロフェナク(ボルタレン)の使用による死亡率との関係を示しており、日本小児科学会では、小児に対して解熱剤を使用する場合はアセトアミノフェンが適切としています。

 

80人の成人インフルエンザ患者に対してアセトアミノフェンの効果を調べた二重盲検ランダム化比較試験では、ウイルス量、症状のスコア、症状が改善するまでの期間のいずれの項目においても、アセトアミノフェンを使用した群と使用しない群では有意差を認めなったと報告されています。

 

現在、インフルエンザの成人患者を対象に、解熱剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン)の使用とその後の経過を調べたもっと大規模な研究が実施され、その結果が待たれるところです。

 

●重症感染症における発熱と予後の関係

先の606人の敗血症患者に対する観察研究では、最高体温が37.5℃〜38.4℃の患者群の死亡率が最も低く、最高体温が38.5℃以上の患者群では36.5℃〜37.4℃の「平熱群」と比べて死亡率に有意差を認めなかったという結果でした。そして、36.5℃未満の「低体温群」では最も死亡率が高く、66%の死亡率であったと報告されています。

 

●発熱が免疫に与える影響を調べた基礎研究

ある日本の研究では、免疫細胞の一種で異物を貪食するマクロファージは、温度センサーを持っていて、37℃付近からマクロファージの活性が高まり、人の発熱域である38.5℃でさらに強く活性化することが明らかになっています。

 

また、別な日本の研究でも、白血球の1種である好中球は、活性酸素を使って病原体を不活化しますが、37℃付近から高温域で、活性酸素を作るための水素イオンチャンネルの供給が増えることが明らかになっています。

 

いずれも、病原体が侵入した時の発熱は、免疫細胞を活性化するための「生理的な手段」と考えてもよさそうです。

 

一方、昨年、東北大学から発表された研究では、1)40℃という高熱は、37℃に比べてインフルエンザウイルスの感染がなくとも細胞障害が生じること、2)インフルエンザの感染がある場合は、40℃という高温は37℃に比べてより細胞障害が生じることが明らかになりました。

 

ということは、ある程度の発熱は(38.5℃くらい)、感染症に対する白血球の働きを活発にする生理的な反応として許容すべきと考えられますが、40℃にもなると、もはや細胞にダメージが来るような非生理的な発熱と考えてもよさそうです。

 

●感染症に対する解熱剤の副作用

NSAIDs、アセトアミノフェンともに低血圧のリスクが指摘され、さらにNSAIDsでは、腎機能障害(尿量の有意な減少)のリスクが指摘されており、感染症に対して解熱剤を使用した場合、低血圧や臓器血流の減少に配慮する必要があります。

 

●感染症による発熱に対する処置

ここで紹介したものは、重症敗血症とインフルエンザが混在しているのですが、以上の結果から、38.5℃くらいまでなら「免疫を活性化させる最も好ましい発熱反応」として様子をみることにして、38.5℃を超えて苦痛を伴う場合や、39.5℃を超えて40℃に迫るような高体温では、1)積極的にクーリングを行う、2)解熱剤を使用する場合はアセトアミノフェンを使用する、3)非ステロイド系消炎鎮痛薬は避けるべき、と考えられます。そして、解熱剤を使用する場合は、急速に平熱に持っていくようなことはせずに、熱が38℃付近に収まるようにゆるやかに解熱することが好ましいと言えます。

 

発熱に対して、保護者や介護者の心配のために解熱剤を使用していることが少なくありません。

 

安易な解熱剤の使用について、もう一度考えてみるべき機会なのかもしれません。

 

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談などは行っておりませんので、どうかご了承下さるようお願い申し上げます。


2020年4月8日(水)

 第153話 新型コロナウイルスに備えるために‐どのような気持ちで過ごすべきか?
投稿:院長

新型コロナウイルスの感染者の急増で、不安な気持ちで過ごしている方が多いと思いますが、人の性格や心理が免疫にどのような影響があるのか調べてみました。

 

人の性格を表現する際に、明るい人とか暗い人とか、いろんな尺度がありますが、最近は5つの因子で説明できるとした「性格5因子論」が定着しつつあり、ビッグ5と呼ばれています。

 

その5つの因子とは、神経症傾向、外向性、開放性、協調性、誠実性です。

 

神経症傾向とは、外部刺激に敏感に反応して情緒不安定になりやすい傾向を表す要素です。極端すぎると、ストレスにより不安や緊張感が高まり過ぎることがあります。

外向性とは、外部に強い刺激を求め、活動的で社交的な傾向を表す要素です。極端すぎると、無謀な面がみられることがあります。

開放性とは、遊び心があり、新しいものに好奇心を持って近づくような傾向を表す要素です。極端すぎると、社会から逸脱し、夢想を追い求めてしまうことがあります。

協調性とは、共感性や思いやりをもって人と協調関係を結ぶ傾向を表す要素です。極端すぎると、他人に気を使いすぎて人に同調し過ぎたり、追従してしまうことがあります。

誠実性とは、目的をもって計画的に物事をやり抜こうとする傾向を表す要素です。極端すぎると、完璧主義的で失敗を許容できなくなることがあります。

 

各要素は誰でも持っていますが、その強さは一人一人で異なっており、それが総合的に組み合わさって各人の性格特性が判断されます。

 

現在、体の中で発生する微小な慢性炎症が、老化、認知症、がん、脳梗塞、虚血性心疾患、うつ病などの様々な疾患に関係していることが明らかとなっていますが、このビッグ5と慢性炎症の関係を調べた研究が報告されています。

 

6以上の研究を解析した調査では、ビッグ5のうち、誠実性が慢性炎症の指標であるCRPIL-6の数値の減少に強く関係し、他の因子と慢性炎症の数値の間に関係は認められなかったとしています。

 

また、121人の成人を対象として行われた調査でも、誠実性が慢性炎症に関わる遺伝子の発現を減少させ、その反対に、外向性はこの遺伝子の発現を増加させていたとしています。

 

また、この研究では、ビッグ5と抗ウイルス抗体に関係する遺伝子発現との関係も調査していますが、その関連は認めなかったとしています。

 

以上の結果から、予想外の出来事やうまくいかないことがあったとしても、今できることは何なのかよく考え、派手なことではなく、地道に根気よく責任をもって行う性格の方が、長期的には人の健康に有利に働くことを示しています。

 

また、外出が制限された環境の中でどう過ごせばよいのか、笑いと免疫の関係で調べてみました。

 

現在まで、漫才、落語、お笑いビデオ、コメディ映画などの笑いの刺激の後に、唾液中のIgA抗体価の上昇、免疫細胞の一つであるナチュラルキラー細胞(NK細胞)活性の上昇、免疫力のバランスの指標であるCD4/CD8比の改善、脳内麻薬の一つであるβエンドルフィンの上昇、ストレスホルモンであるコーチゾールの低下などの変化があったという研究結果が数多く報告されています。

 

ただ、研究により笑いの定義や尺度にばらつきがあり単純に比較できないこと、いずれも少人数での研究で、笑いの刺激の前後でこれらの数値に変化はなかったとする報告もあること、笑いの刺激は短期的で数値の変化も一時的なもので、実際に感染症の予防を始めとした長期的な効果については明らかにされておらず、今後さらに検証が必要だと思います。

 

3月に、新型コロナウイルス肺炎により志村けんさんがお亡くなりになりましたが、追悼の意味を込めて、子供の頃に楽しんだ「8時だよ全員集合」「ドリフの大爆笑」「バカ殿様」を懐かしく視聴してみたのですが、しんみりとするより大爆笑の連続でした。

 

外出の自粛が求められていますが、こんな時こそ自分を見失わず、時にはお笑いの力を借りて気分転換してはどうでしょうか?

 

きっと、人生をかけて笑いを追求してきた志村さんがそれを一番に望んでいるに違いありません。


2020年4月4日(土)

 第152話 新型コロナウイルスに備えるために−学校は再開すべきなのか?休校のままにすべきなのか?
投稿:院長

日本でも新型コロナウイルスの感染者が急増し、政府の対応に注目が集まっています。


227日、政府から全国の学校を一斉休校にするよう要請が出された際、その判断に賛否両論が巻き起こり、感染症の専門家の意見も分かれました。


新学期を迎えようとしている中で、これに対して絶対的な答えがない今、現時点で判明していることを一つ一つ一度検証してみたいと思います。


●小児の集団感染の報告は?

私が調べた限り、学校などの場所で小児同士の集団感染があったという報告は今のところ見当たりませんでした。

先の京都産業大学で起きたクラスターも、20代の学生が中心のようです。

新型コロナウイルスへの感染疑い、または感染が確定した18歳未満の小児2143人を集めた中国からの報告(報告A)でも、8割以上は家族内クラスターで感染し、学校などで感染したことは記載されていません。


●軽症なのは小児だけなのか?

小児のほとんどは無症状か軽症ということは盛んに報道されていますが、先の報告Aでも、小児感染者のうち無症状4.4%、軽症50.9%、中等症38.8%で、重症または危篤状態になった小児は5.9%でした。しかし、幼児以下の年齢では比較的重症化率が高く、1歳未満では10.6%、15歳では7.3%の小児が重症または危篤状態になったと報告されています。

一方、ダイアモンドプリンセス号の報告では、218日の時点でPCR検査が陽性となった乗員乗客531人のうち(このうち20歳未満は3名)、実に255人が無症状でした。

ということは、成人であってもかなりの人が無症状で、こういった無症状の人達が感染源になりやすいと言えそうです。


●小児は感染しにくいのか?

先のダイアモンドプリンセス号の報告では、19歳未満で乗船していた39人のうち、3人の感染が確認され(うち無症状が2人)、7.7%の感染率でした。この報告では、50歳以上では感染率が10%を超え、70歳以上では感染率が20%を超えていますが、7.7%という感染率は50歳未満の成人とほとんど変わらない数字でした。乗船していた人にすべて等しい感染機会があったとすると、小児も成人と同じように感染してしまうことを示唆しています。

また、米国と中国の研究者による共同調査では、中国で新型コロナウイルス肺炎に罹患した患者と濃厚接触のあった人の感染率を調べた結果、9歳以下7.4%、107.1%、206.1%、306.0%、404.9%、509.1%、6015.4%、709.7%で、9歳以下と10代は、40代以下の成人に比べて同等もしくはそれ以上の感染率を示し、これはダイアモンドプリンセスの結果とほぼ一致しています。

以上の結果から、小児は重症化しにくいものの、感染者と濃厚接触した場合は成人と同じように感染する可能性があるということを示唆しています。


●小児はどうして重症化しないのか?

最近、スウェーデンから出された論説では以下のような仮説を立てています。

1成人とコロナウイルスに対する免疫反応が異なるからではないか?

2小児の気道粘膜にありふれた他のウイルスの存在がコロナウイルスの増殖を抑制し、ウイルス間の相互作用により、小児では成人に比べてウイルス量が少ないのではないか?

3コロナウイルスが人に感染する際、侵入の起点になる肺のACE2受容体の発現が小児では少ないのではないか?

4小児はコロナウイルス肺炎の最重症型の一つである急性呼吸窮迫症候群(ARDS)になりにくいのではないか?

また、それ以外にも、小児は成人のようにコロナウイルス感染初期のリンパ球減少が認められず、感染後の免疫機能が保たれるためではないか、と複数から報告されています。

いずれも仮説の域を出ず、今後の検証が待たれるところです。


●小児は感染源になりうるのか?

中国で家族クラスターを起こした感染者を詳細に分析すると、小児から大人へ感染した可能性を示唆する報告もあり、そういったケースも「家族内クラスター」として一括りに報告されていることを知っておく必要があります。

また、症状が軽くても非常に多くのウイルスを保有していたという小児の報告もあり、小児では無症状であっても保有するウイルス量が多ければ、成人と同じように感染源になりうる可能性があります。

さらに、PCR検査で陽性と確認された感染者(成人ですが)では、咽頭よりも鼻腔でウイルス量が多いことや、糞便からのウイルスの排泄期間が最も長いことが報告されており、自分の身体的ケアが不十分な年齢になるほど、その保護者や周囲にいる小児の接触感染や糞口感染のリスクが増えることは十分に考えられます。

これを明かにするには、家族内クラスターや、日本で報告されている保育所でのクラスターについて詳細に分析していく必要があります。


●学校での感染拡大を防ぐ

先に示したデータの通り、感染者と濃厚接触しても50歳未満であれば、感染率が10%に達しません。つまり、年齢にかかわらず、多数の人の集まりを出来るだけ避けることによって感染拡大を防ぐことができるということです。

しかし、学校は規模の大きな人の集まりになりやすく、また濃厚接触が長期間続く場所になりやすいという環境であるということは間違いありません。


学校を再開するのか休校を継続するのか、政府や専門家の方の判断に委ねたいと思いますが、再開する場合であっても、専門家会議で示された感染拡大を防ぐ3原則、つまり「喚起の悪い密閉空間を作らない」「人が密集しない」「近い距離での会話や発声を避ける」ことが大切であることは何も変わりません。


2020年3月31日(火)

<<前のページ 最新 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 最初 次のページ>>

現在5ページ目を表示しています



医療法人社団太陽会 仙台在宅支援たいようクリニック
〒984-0037 宮城県仙台市若林区蒲町30-3
022-355-2533

Copyright (c) Sendai Home-care Support Clinic All Rights Reserved.