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 第165話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−なんでも効いてしまうスーパー抗生物質の使い方−
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

皆さんは、どんな細菌感染症にでも効いてしまうスーパー抗生物質があったら、すごいと思うかもしれません。

 

1942年にペニシリンが実用化されて以来、より広範囲の細菌をカバーできる抗生物質が理想とされ、開発が進められてきました。

 

その中でも、フルオロキノロン系抗菌薬は、肺炎球菌を含めたグラム陽性菌、緑膿菌を含めたグラム陰性菌、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラといった市中の感染症の病原体のほとんどをカバーし、さらに、腸管からの高い吸収率、組織への高い移行性、11回の内服でよいという利便性を兼ね備えた抗生物質として市場でのシェアを拡大してきました。

 

日本では、現在10種類のフルオロキノロン系抗菌薬が使用され、中でもレボフロキサシン(クラビット)はその使用量の半数以上を占め、私が知る限り、肺炎はもちろん、咽頭炎、気管支炎、尿路感染症、胆道感染、腸管感染症、皮膚感染症など、人体のあらゆる部位の感染症に対して、病院やクリニックの外来で広く使われています。

 

しかし、このようなスーパー抗生物質といえど、薬剤耐性の問題を克服することはできず、耐性菌の増加が年々深刻化してきているのです。

 

●日本での多剤耐性菌による死亡者数

2017年の厚生労働省院内感染症対策サーベーランスをみると、大腸菌のフルオロキノロン系抗菌薬の耐性率は40.1%にまで上昇していることが示されています。

 

さらに、2019年に、AMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンターから、日本での薬剤耐性菌の菌血症による死亡数の推定が初めて発表されています。

 

それによると、薬剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症による死亡数は2017年に4224名、フルオロキノロン耐性大腸菌による死亡数は2017年に3915名と推定されました。

 

そして、年度別の推移をみると、MRSAによる菌血症による死亡者は年々低下傾向なのですが、フルオロキノロン耐性大腸菌による死亡数は年々増加していることが示されています。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬と耐性菌発生との関係

海外では、フルオロキノロン系抗菌薬が、薬剤耐性菌の発生にどのような影響を及ぼしているのか調べた研究が複数報告されており、以下に紹介します。

 

研究チームは、クロストリジウムディフィシル菌による偽膜性腸炎の入院患者200人に対する観察研究を行った。その結果、60日以内に43人の患者に偽膜性腸炎の再発が認められ、年齢、薬剤、腎機能障害、免疫不全、併存疾患、以前の入院歴など様々な因子を解析した結果、フルオロキノロン系抗菌薬の使用が、唯一再発のリスク因子であった(調整オッズ比2.9)。

 

研究チームは、プライマリ・ケアの現場で使われる抗生物質が、入院患者の多剤耐性グラム陰性菌の発生にどのように影響があるのか症例対照研究を行った。

多変量解析で分析した結果、プライマリ・ケアの現場における第三世代セファロスポリン系抗菌薬(これも広範囲の細菌に効果のある薬剤として汎用されています)とフルオロキノロン系抗菌薬の使用が、入院患者の多剤耐性菌の発生と有意に関連していた(P=0.004)。

 

研究チームは、市中で発生した薬剤耐性(ESBL産生)腸内細菌による血流感染のリスク因子を調べるため、945人の患者群と9390人のコントロール群による症例対照研究を行った。

その結果、過去3か月以内のフルオロキノロン系抗菌薬の使用が、ESBL産生腸内細菌による血流感染と有意に関連していた(調整オッズ比5.52)。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬使用の見直し

以上の流れの中で、日本でもフルオロキノロン系抗菌薬の使用を見直す機運が高まり、2016年にAMR(抗生物質耐性)対策アクションプランが採択され、2020年までにフルオロキノロン系抗菌薬の使用量を50%減らし、大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下とする数値目標が掲げられました。

 

また、2016年に米国食品医薬品局(FDA)から医療従事者向けに、フルオロキノロン系抗菌薬に対する安全情報と勧告が出されています。

 

それによると、フルオロキノロン系抗菌薬は、腱(腱炎、腱断裂)、筋肉(筋肉痛、筋力低下)、関節(関節痛、関節腫脹)、末梢神経(末梢神経障害)、中枢神経(けいれん、めまい、抑うつ、幻覚など)への不可逆的・永続的な副作用のリスクと関連し、急性副鼻腔炎、急性または慢性気管支炎、合併症のない尿路感染症の治療において、利益よりも副作用のリスクが上回るとして、他に治療の選択肢がない場合を除いて、全身投与を行わないように勧告しています。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬が第一選択となる病態

ここでは、フルオロキノロン系抗菌薬の代表的な薬剤であるレボフロキサシン(クラビット)とシプロフロキサシン(シプロキサン)について、市中感染症の場面を想定して、考えたいと思います。

まず、レボフロキサシンの使用が第一選択となる場面は、気道感染症の中では、レジオネラ肺炎や、アレルギーなどで他の抗生物質が使用できない場合の細菌性肺炎(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌など)など、かなり限られた病態だけになるものと考えられます。咽頭炎、中等症以上の副鼻腔炎、皮膚の感染症に対しては、他の抗生物質が使用されるべきです。また、大腸菌による尿路感染症をはじめとする腸内細菌感染症に対しては、もはや使用を控えるべきと思われます。

 

次に、シプロフロキサシンの使用が第一選択となる場面は、グラム陰性菌の感染症の中でも、外来や他の抗菌薬が使用できない場合の緑膿菌感染症など、かなり限られた病態だけになるものと考えられます。グラム陽性菌による感染症に対しては、他の抗生物質が使用されるべきです。

 

今まで、オールラウンドな作用を持つ抗生物質が理想とされ、フルオロキノロン系抗菌薬はその代表格として、外来診療でも広く活用されてきました。しかし、本来は重症細菌感染症の切り札としての役割を担うべき抗生物質を、軽症のありふれた感染症に対して最初から投与するやり方を変えるべき時が来ています。

また、オールラウンドというのは、人体と共生している細菌に対しても無差別に抗菌力を発揮し、病原性の強い耐性菌の発生につながりやすいという危険性を孕んでいます。

したがって、これからは、オールラウンドな抗菌力を持つ抗生物質よりも、狭い範囲の細菌にしか効かないけれど、それが得意とする感染症に対してしっかり効いてくれる職人のような抗生物質を選んで、上手に使いこなしていく時代なのです。

 

新型コロナウイルス感染症が流行している中であっても、私達は、それ以外の様々な感染症と付き合っていくことになります。その中で、私達には、必要とする人にだけ抗生物質を使用し、適切な抗生物質を選択するという姿勢求められています。そして、必要でない人には、抗生物質を使用しないことも将来につながる立派な医療だということを忘れてはいけません。

 

次回は、気道感染症を中心とする抗生物質の選択や治療期間について触れたいと思います。


2020年5月16日(土)

 第164話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−あまり知られていない重い副作用について−
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

前回は、抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響を中心に書きましたが、今回は、抗生物質による副作用についてです。

 

一般的に、よく知られている抗生物質による副作用には、投与直後のアレルギー、薬疹、肝機能障害などがありますが、これ以外にあまり知られていない副作用について挙げてみたいと思います。

 

●抗生物質の使用とアレルギー疾患発症との関係

次に紹介するのは、抗生物質とアレルギー疾患の関連を調査した日本の研究です。

研究チームは、2004年から2006年に生まれた新生児1550人を対象に観察研究を行った。

その結果、2歳までに抗生物質の投与を受けた群では、5歳までに喘息、アトピー性皮膚炎、鼻炎を発症するリスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ1.721.401.65)。

抗生物質の種類別にアレルギー疾患発症との関係をみると、セフェム系抗菌薬が喘息と鼻炎の発症と関連し(調整オッズ比はそれぞれ1.971.82)、マクロライド系抗菌薬がアトピー性皮膚炎の発症と関連していた(調整オッズ比1.58)。

 

以下は、抗生物質と食物アレルギーの関連を調査した研究です。

研究チームは、2007年から2009年に生まれた7499名の乳児を対象として、食物アレルギーについての症例対照研究を行った。

その結果、生後1年以内に抗生物質の処方を受けた子供は、抗生物質の処方を受けない子供に比べて有意に食物アレルギー発症のリスクが高かった(調整オッズ比1.21)。

さらに、生後1年以内に抗生物質の処方機会が増えるほど、食物アレルギー発症のリスクが高まった(3回、4回、5回以上の調整オッズ比はそれぞれ1.311.431.64)。

また、抗生物質の種類別の食物アレルギーの発症リスクは、セフェム系、マクロライド系、ペニシリン系の順に高かった(調整オッズ比はそれぞれ1.501.361.19

 

いずれも、幼少期での抗生物質の使用は、アレルギー疾患の発症と関連していることを示す結果となっています。この理由として、前回のブログで紹介した通り、抗生物質が腸内細菌のバランスに影響を及ぼし(ディスバイオーシス)、その影響が長期に及ぶことが考えられています。

 

●抗菌薬の使用と心血管疾患・死亡との関係

以下は、抗生物質の使用と心血管疾患・死亡との関係を調査した観察研究です。

研究チームは、36000人以上の60歳以上の女性を対象とし、各対象者が若年(20歳から39歳)、中年(40歳から59歳)、高年(60歳以上)の期間中に、どれくらいの期間にわたって抗生物質投与を受けたのかを、投与を受けていない群、1日から15日未満の期間で投与を受けた群、15日から2か月未満の期間で投与を受けた群、2か月以上の投与を受けた群の4つの群に分けて、平均7.6年間観察を行った。

その結果、中年と高年で15日以上の抗生物質の投与を受けると心血管疾患の発症リスクが有意に高かったが、中年の期間中に2か月以上の抗生物質の投与を受けた群と、高年で2か月以上の抗生物質の投与を受けた群では、特に心血管疾患の発症リスクが高かった(調整ハザード比は1.281.32)。

 

また、中年の期間中と高年で2か月以上の抗生物質投与を受けた群は、有意に死亡リスクが高かった(調整ハザード比はそれぞれ1.271.19

 

この研究は観察研究なので、必ずしも因果関係を証明しているわけではありませんが、抗生物質の投与期間が長いほど、女性の心血管疾患や死亡リスクと関連していることが示されています。特に、40歳から59歳の期間中に抗生物質の投与を受けた場合でも、60歳以上になってからの心血管疾患や死亡リスクと関連していることは衝撃的でした。

この理由として、腸内細菌フローラのディスバイオーシスにより、動脈硬化の進行や血小板機能を亢進させる代謝産物が関係している可能性が示唆されています。

 

●抗生物質の使用とがん発症との関係

以下は、抗生物質の使用とがんの発症との関係を調査した観察研究です。

研究チームは、住民登録された300万人以上の30歳から70歳の成人を対象として、1995年から1997年にかけての抗生物質の処方を受けた回数を01回、25回、6回以上の群に分けて、その後、1998年から2004年までの期間中のがんの発症との関連を調査した。

その結果、01回の群に比べると、25回、6回以上の群で有意にがんの発症率が高かった(相対危険度はそれぞれ1.271.37)。また、部位別では、01回の群に比べ、25回の群と6回以上の群での相対危険度はそれぞれ、前立線がん:1.361.39、乳がん:1.161.14、肺がん:1.321.79、結腸がん:1.171.15と有意差を認めた。

 

この研究では、抗生物質の処方を受けてから比較的短い間隔をおいて追跡が始められており、もともと潜在的に存在していたがんに関連する感染症により抗生物質が使用された可能性や、喫煙の影響(特に肺がん)などが無視できず、抗生物質が必ずしもがん発症の原因になっているとは言い切れない点に注意が必要です。しかし、観察開始から少なくとも5年間がんを発症しなかった対象者に絞った分析でも、抗生物質の処方とがんの発症に関連性が認められたことや、喫煙の影響を受けないとされる皮膚がん、甲状腺がんなどでも抗生物質の処方とがんの発症との関連が示されており、抗生物質を含めた様々な因子ががん発症に関連しているものと思われます。

さらに、この論文では、抗生物質ががん発症の誘因となるメカニズムについて、1)抗生物質自体に発がん性があること、2)腸内細菌フローラに影響を及ぼし、発がんに関わる病原菌の増殖やがんの抑制に働くファイトケミカルを減少させること、4)直接的または腸内細菌を介した間接的な経路でがんに対する免疫機能を低下させること、などの可能性を挙げています。

 

●抗生物質の使用と不整脈発症・死亡との関係

以下は、抗生物質の使用と不整脈や死亡との関係を調査した観察研究です。

研究者は、国民健康保険に登録された20歳から99歳までの1000万人以上を対象者として、2001年から2011年にかけてマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシン)、フルオロキノロン系抗菌薬3種類(シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンクラブラン酸)の投与を受け、投与開始7日以内の心臓疾患の発症について調査した。

その結果、アジスロマイシン、モキシフロキサシンの使用群は、アモキシシリンクラブラン酸の使用群に比べて心室細動の発症リスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ4.323.30)。また、アジスロマイシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシンの使用群は、アモキシシリンクラブラン酸の使用群に比べて心血管死のリスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ2.622.311.77)。

 

薬剤による心室細動の発症頻度は稀ですが、マクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬の使用は、心室細動の原因となりうるQT延長症候群の原因となることが知られています。したがって、これらの薬剤を使用する際は、過去の不整脈、心疾患の有無、QT延長の原因となりうる他の薬剤との併用について、詳しい問診が必要になります。

 

以上、頻度は少ないものの、発症するとその後の生活の質や生命に関わるような重い病態について紹介してきました。

 

抗生物質は、新型コロナウイルスの治療薬ではありませんし、発熱と気道症状を訴えて受診した患者さんに対して、十分な根拠のないまま抗生物質の処方が増えることにならないかとても心配しています。

 

それは、個人の健康への影響のみならず、耐性菌の蔓延という社会問題につながるからです。

 

抗生物質の使用は、どのような状況であれ、その利益と不利益のバランスをしっかりと考え、利益が不利益を上回ると考えられる場合にのみ使用すべき薬剤であることは全く変わりません。そのために、医師と患者さん双方で、必要のない抗生物質の使用をお互いに控えていく努力が求められています。

 

次回は、日本で最も汎用されている抗生物質の一つであるフルオロキノロン系薬剤(特にレボフロキサシン)の使い方を中心に考えていきたいと思います。


2020年5月13日(水)

 第163話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−腸内細菌への影響−
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

もし、日常診療で5種類の薬だけしか使えないとしたら、抗生物質、ステロイド剤(吸入や軟膏を含めて)、利尿剤、鎮痛薬(アセトアミノフェン)、漢方薬を選択すると思います(あと一つ加えるとしたら便秘の薬?)。とにかく、この5種類の薬剤には、患者さんも治療する私も何度も助けられてきましたし、今後も絶対に欠かせない重要な薬剤です。

 

中でも、抗生物質は、感染症との戦いの長い歴史の中で、人類に大きな恩恵をもたらしてきました。

 

しかし、抗生物質が広く使われるようになるにしたがって、1900年代の後半から、薬剤耐性(AMR)感染症が世界的に拡大し、抗生物質の使い過ぎが問題になってきました。

 

世界協力開発機構OECDのレポートでは、2013年の時点で、AMRに起因する世界の死亡者数は低く見積もって1年間で70万人、何も対策を立てないと2050年にはアジアを中心に、なんと1000万人の死亡が予想されるとしています。

 

また、2013年の資料では、日本の抗生物質の使用状況を他の国と比較すると、日本では、幅広い細菌に対して抗菌作用のある第三世代セファロスポリンやフルオロキノロンといった抗生物質を使用している割合が突出して高いことが明らかになっています。

 

これを受けて国際社会では、薬剤耐性感染症の蔓延を防止することを目標に、AMRに対する行動計画が策定され推進されてきました。具体的には、WHOでは、2015年にAMRに関するグローバルアクションプランが採択され、日本でも2016年から2020年までの5年間で、医療における抗生物質の使用を適正化し、主な微生物における薬剤耐性率を低下させることを数値目標として掲げて取り組みがなされてきました。

 

そして、AMRアクションプランの最終年であった今年、新型コロナウイルス感染症が全世界に広がっています。

 

この状況の中で、私たちは抗生物質をどのように有効利用していけばよいのでしょうか?

 

ご存知の通り、抗生物質はウイルス感染症には効果がありませんが、私の個人的な経験から、ちょっとした風邪症状に対して抗生物質の処方を希望する患者さんは少なくないし、医師も抗生物質を安易に処方してしまうことがたびたびあるのは事実です。

 

しかし、このような患者さんや医師の間で、抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響について深く認識したり説明したりすることはほとんどないと言ってよいと思います。

 

そこで、今回は、なぜ抗生物質の適正使用が必要なのか、抗生物質と腸内細菌との関りを中心に書いていきたいと思います。

 

【腸内細菌と腸管の免疫細胞との共生】

免疫細胞は、腸内細菌から様々なシグナルを受けて“教育され”、その機能維持や分化に腸内細菌が重要な役割を果たしていることが分かってきました。以下、腸管における免疫細胞と腸内細菌の相互作用についてまとめてみました。

 

●腸管上皮リンパ球

腸内細菌層に関連した分子パターンを認識し、腸管組織の修復、抗菌ぺプチドの産生、微生物に感染した上皮細胞を自然死させることにより感染の拡大を防ぐ働きがあります。

 

●腸管上皮細胞

腸内細菌の構成成分である糖脂質を感知し、抗菌ペプチドの分泌維持に関わっています。

 

●樹状細胞

抗原提示の役割がありますが、それ以外に、腸内細菌の鞭毛を感知したり、自然リンパ球を介して抗菌ペプチドの分泌維持に関わっています。

 

●免疫グロブリンA産生細胞

IgA抗体を産生し、腸管粘膜の細菌、ウイルス、毒素に結合してこれらを排除することにより粘膜免疫を担っていますが、腸内細菌が免疫グロブリンA産生細胞の分化に重要な役目を果たしています。特にセグメント菌(※)は、免疫グロブリンA産生細胞やIgA抗体を増加させる働きがあります。

 

※セグメント菌とは、分節した特徴的な形態を持ち、クロストリジウムに属すると考えられています。

 

Th17細胞

T細胞に属し、腸管上皮細胞を活性化することにより、抗菌ぺプチドの産生を促進し、腸管粘膜の防御力を高め、病原菌や真菌に対する感染防御の役割を果たしていますが、セグメント菌は、自然リンパ球のTh17細胞への分化を強く誘導することが知られています。

 

●制御性T細胞

Treg(ティーレグ)と呼ばれ、宿主への過剰な免疫応答に対して抑制的に働き、クロストリジウム菌や菌が産生するプロピオン酸や酪酸などの短鎖脂肪酸が制御性T細胞の分化や産生に重要な役割があることが解明されています。特に、アレルギー疾患、炎症性腸疾患、自己免疫疾患でこれらクロストリジウム菌が減少していることが報告されています。

また、制御性T細胞は、IgAの産生を通して腸内細菌のバランスを維持することに働き、逆に、バランスの良い腸内細菌は、制御性T細胞やIgA抗体の産生を通して健全な腸管免疫を維持することに働き、双方向からお互いを制御していることが知られています。

 

B細胞

抗体の産生に関わっていますが、腸内細菌の構成成分ある糖脂質を感知することにより、脾臓におけるB細胞分化が促され、体内を循環する抗体量が維持されています。

その他、腸内細菌は、免疫細胞のシグナルを調整してワクチンの免疫応答に影響を与えています。

 

【抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響】

腸内細菌のバランスが変化し、量的・質的に異常をきたした状態をディスバイオーシスdysbiosisと呼びますが、近年、ディスバイオーシスと炎症性腸疾患、肥満、糖尿病、動脈硬化、関節リウマチ、パーキンソン病、多発性硬化症など様々な疾患との関連が報告されています。

 

ディスバイオーシスの要因には、生活習慣、食事、薬剤など様々なものが挙げられますが、中でも、抗生物質は、ディスバイオーシスに強く関係しています。以下、抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響を調べた研究を紹介します。

 

感染症の患者に対して抗生物質を投与し、抗生物質が腸内細菌フローラに与える影響を調べた研究では、フルオロキノロンとβラクタム系抗菌薬を7日間内服すると、投与終了時には、腸内細菌の多様性が25%減少し、主要な29の細菌群が12群に減少した。また、菌の構成の変化では、一般的に悪玉菌に分類されるバクテロイデス群の割合が増え、クロストリジウム菌が属しているファーミティクス群の割合が減少した。

 

ボランティア対して抗生物質を投与し、抗生物質が腸内細菌フローラに与える影響を調べた研究では、クリンダマイシンを10日間投与しDNA解析をした結果、内服1か月後でも21の細菌群の割合の減少が認められ、うち18群がクロストリジウム菌に属していた。また、便の培養を行った結果、投与直後にはビフィズス菌群と乳酸菌群がともに減少し、特にビフィズス菌群は投与12か月後になっても投与前の状態に回復しなかった。

 

シプロキサシンを10日間投与しDNA解析をした結果、内服1か月後でも15の細菌群の割合が減少し、うち8群がクロストリジウムに属していた。また、便の培養を行った結果、投与直後では、大腸菌群とビフィズス菌群の減少が認められた。

 

以上の結果から、抗生物質はビフィズス菌やと乳酸菌といった善玉菌に分類される細菌や、制御性T細胞の分化に重要な役割を果たしているクロストリジウム菌に大きな影響を及ぼしていることがわかります。

 

【抗生物質が腸内細菌を介して免疫システムに及ぼす影響】

抗生物質は、「腸内細菌と腸管の免疫細胞との共生」で記したすべてのプロセスに影響を与えますが、腸内細菌を通した抗生物質の弊害について大きく2つに分けると、1)病原菌に対する防御機能の低下、2)アレルギーをはじめとする免疫の異常を促進することになります。

 

●病原菌に対する防御機能の低下 

抗生物質は、腸管粘膜の粘液、抗菌ぺプチド、IgA抗体、Th17細胞の産生、短鎖脂肪酸の産生を抑制し、腸管の病原菌に対する防御機能を低下させます。

また、特定の細菌は、偽膜性腸炎の原因となるクロストリジウムディフィシル菌、病原性大腸菌、カンジダなどの真菌の増殖を直接的、間接的に抑制していますが、抗生物質は、これらの病原菌に対する腸管の防御機能を低下させます。

 

●制御性T細胞への分化を阻害

抗生物質は、クロストリジウム菌を阻害し、制御性T細胞への分化や組織修復分子を低下させ、腸炎やアレルギーを介した炎症を促進する可能性があります。

 

Th17細胞への分化を阻害

抗生物質は、セグメント菌を阻害し、Th17細胞への分化を低下させ、病原菌に対する免疫応答を低下させる可能性があります。

 

今回は、腸内細菌が、免疫システムとの相互作用の中で重要な役割を果たしていることや、抗生物質が、腸内細菌を介した免疫システムに大きな影響を及ぼしていることを書いてきました。

 

新型コロナウイルスに対しては、感染予防対策と並び、個人の免疫力を高め、それを維持することがとても重要です。そして、個人の免疫力を高める取り組みというのは、感染症に対する予防だけでなく、これからも続く人生をいかに健康的に過ごすか、健康長寿をいかに実現するかという長くて広い視点に立った時に、とても大切な取り組みだと考えています。

 

今回は、専門用語ばかりで難しかったという方も多いかもしれませんが、せっかく自分の腸に住み着いてくれている可愛い細菌(?)に対して、高い賃貸料(代償)を要求することのないよう、赤ちゃんに接するような気持で愛情を持って接していきたいものです。

 

次回は、今回の続きとして、抗生物質の適正使用に関連する臨床試験を中心に書いていきたいと思います。


2020年5月9日(土)

 第162話 新型コロナウイルスに備えるために−高齢者施設での対応と家庭用洗剤の効果
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


新型コロナウイルス感染症の蔓延で、各高齢者施設とも大変なご苦労の中、面会を制限するなど感染防止に努められていると思います。しかしながら、各地の病院や老人施設でクラスターの発生も報告されています。回避できないケースもありますが、中には、休憩室や更衣室での行動や手指衛生など、組織内での注意喚起の不徹底や個人レベルでのちょっとした気の緩みが原因でクラスターを発生させているケースもあります。高齢者施設での感染対策は厚生省などからすでに通知が出されていますが、下記の点について今一度ご確認をお願い致します。

 

【施設内での職員の対策】

●体調不良時の早退、欠勤を許容し、批判しない雰囲気作りを行う

●できる限り窓を開放し自然換気を徹底する(特にミーティングや休憩時の窓の開放)

●食事中や休憩中の会話はできる限り最小限にする

●対面して会話する際は社会的距離(2m)を確保する

●全員でマスク着用を正しく行う(消毒しない状態での使いまわし禁止)

●手で顔を触らない

●一人の入所者を介護するごとに手指消毒を行う

●食事前や入所者へ食事の配膳前に手指消毒を行う

●ペンなど共用物品を最小限にする

●施設内での共用物品(特にパソコンのマウス・キーボード、タブレット、電話の受話器やプッシュボタン、ドアノブ、手すり、トイレの便座や床等)の消毒を行う

●職員だけによるエレベーターの使用を制限する

●エレベーター内での会話を禁止する

●インターホンやボタンは指の関節面でプッシュする

 

尚、アルコールなど消毒液の不足などもあり、その調達に苦労されているかと思います。そのような場合、下記のように、効果が確認された家庭用洗剤を使用する選択肢もあるかと思います。今ある資源を使ってできる限りの対応をお願します。

 

【各家庭用洗剤の効果】

下記は、各家庭用洗剤の新型コロナウイルスに対する不活化効果を調べた実験で、効果が確認された商品です。詳しくは北里研究所「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について」のプレスリリースをご覧ください。

 

●接触時間が1分でウイルスの不活化が確認された手指用・拭き取り用洗剤

かんたんマイペット(原液)、クイックルワイパー立体吸着ウエットシート 香りが 残らないタイプ(絞り液)、クイックルワイパー 立体吸着ウエットシートストロング (絞り液)、クイックル Joan シート(絞り液)、クイックル Joan 除菌スプレー(原液)、食卓クイックルスプレー(原液)、セイフキープ(絞り液)、トイレマジックリン 消 臭・洗浄スプレー ミントの香り(原液)ハンドスキッシュ EX(原液)、ビオレガー ド薬用泡ハンドソープ(原液)、ビオレ u 薬用泡ハンドソープ (3 倍希釈)、ビオレガ ード薬用手指用消毒スプレー(原液)、ビオレガード薬用ジェルハンドソープ (3 倍希 釈)、ビオレu手指の消毒液(原液)、リセッシュ除菌 EX プロテクトガード(原液)

 

●接触時間10分でウイルスの不活化効果が確認された洗濯や器具の洗浄洗剤

アタック高浸透リセットパワー(3.5g/L)、アタック ZERO3000倍希釈液)、クリ ーンキーパー(100 倍希釈)、ワイドハイターEX パワー液体(100 倍希釈液)、ワイ ドハイターEX パワー粉末(5.0g/L)、ワイドマジックリン(10g/L)

 

●接触時間1分で不活化効果が確認されたアルコール濃度

不活化効果あり:50%70%90%エタノール

不活化効果なし:10%、30%エタノール

 

●接触時間10分で不活化効果が確認されたアルコール濃度

不活化効果あり:50%70%90%エタノール

不活化効果なし:10%、30%エタノール

 

従来、ウイルスの不活化には70%のアルコール濃度が必要とされていましたが、この実験では50%の濃度でも効果があったとしています。


2020年5月5日(火)

 第161話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待 パート3
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

前回まで、緑茶に含まれるカテキンが新型コロナウイルスに効果がある可能性と、インフルエンザや上気道炎などのウイルス性感染症の発症を予防する効果について述べました。

 

今回は、細菌感染症に対する効果について触れてみたいと思います。

 

●緑茶の歯周病に対する効果

緑茶の細菌感染症に対する効果の中でも、最も報告が多いものが歯周病に対する効果です。

 

以下は、外国の二重盲検無作為比較対照試験です。

研究チームは、歯周病を持つ3040歳の45人の成人を、緑茶を含んだガムで115分間、12回噛む群(緑茶群)と、緑茶を含まないガムを同じ頻度で噛む群(プラセボ群)に分けて、7日後、21日後の歯肉出血指数(SBI)、プラーク指数(API)について調査した。また、21日後にそれぞれの群で歯周病の炎症に深く関わっているとされるサイトカインIL-1βの唾液中の濃度を測定した。

その結果、緑茶群はプラセボ群に比べて、1〜7日、121日、721日のいずれの期間においても、SBIAPIの両指数で有意に減少幅が大きかった。まだ、唾液中のIL-1βは、緑茶ガム群で21日後に有意な減少を示したが、減少幅は両群で有意な差を認めなかった。

 

以下は、日本の横断研究です。

研究チームは、49歳から59歳までの日本人940人について、1日に緑茶を飲む回数と、検査器具を使った診察で、歯周ポケットの深さ(PD)、臨床的アタッチメントロス(歯肉と歯が接触していない距離:AL)、出血(BOP)の各指標について調査した。その結果、様々な因子を調整しても、緑茶を1杯飲むごとに平均PD0.023o低下、平均AL0.028o低下、平均BOP0.63%低下が認められた。

 

緑茶が歯周病に対して抑制的に働く理由ですが、カテキンが歯周病の主要な細菌であるジンジバリス菌、プレボテラ菌の増殖を阻害すること、ジンジバリス菌の人の頬粘膜上皮細胞への接着や毒素の産生を抑制すること、炎症に関わっているサイトカインを抑制すること、骨芽細胞や骨髄に作用して骨破壊を抑制することなどが考えられています。

 

●緑茶の肺炎に対する予防効果

以下は、日本で行われた大規模な観察研究です。

研究チームは、19079人の男性と21493人の女性に対し(年齢は40歳〜79歳)、1日に緑茶を飲む回数と肺炎による死亡について12年間追跡して調査を行った。

その結果、女性では11杯未満の群に比べて、112杯、134杯、15杯以上の群では、飲む量が増えるほど肺炎による死亡が低下していた(調整ハザード比はそれぞれ0.590.550.53)。しかし、男性では、喫煙を含めた様々な因子を調整しても有意な差が認められなかった。

 

この研究では、肺炎の原因となった病原体については調査されていないのですが、中高年以上の年齢を対象としているので、おそらく何らかの細菌性肺炎が原因と思われます。また、70歳以上と70歳未満に分けて解析を行っていますが、いずれの年齢層においても緑茶の予防効果が認められています。男性に対する予防効果が認められなかった点は残念ですが、はっきりとした原因は不明でした。

 

●緑茶の尿路感染に対する効果

以下は、外国の二重盲検無作為比較対照試験です。

研究チームは、急性膀胱炎と診断された健康な閉経前女性107人(年齢は18歳から50歳)を、抗菌薬(ST合剤480mgを12回内服)と緑茶成分2000rを含むカプセルを就眠前に併用する群(緑茶群)と抗菌薬と緑茶を含まないカプセルを併用する群(プラセボ群)に分けてその後3日間の膀胱炎症状の有無を調査した。

その結果、1日後の膀胱炎症状は、緑茶群61%、プラセボ群74%、2日後の膀胱炎症状は、緑茶群34%、プラセボ群67%、3日後の膀胱炎症状は、緑茶群2%、プラセボ群63%でそれぞれ認められ、緑茶群で有意に症状の改善が示された。また、6週間後の再発も緑茶群で少なかった。

 

尿中に排泄されるエピガロカテキン(EGC)の90%は飲んでから8時間以内に排泄されるそうで(エピガロカテキンガレート(EGCG)は尿中にほとんど排泄されないようです)、この研究ではトイレの回数が少なく膀胱内に蓄尿しやすい就眠前にカテキンを飲むと効果的ではないかと述べています。

 

緑茶のカテキンは、様々な機序により様々な細菌の増殖抑制作用が示されていますが、以下のように、この作用を利用した抗菌薬との相乗効果が示されています。

細菌細胞膜の合成抑制(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系抗菌薬)

細菌たんぱくの合成抑制(マクロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系抗菌薬)

細菌核酸合成抑制(キノロン系抗菌薬、メトリニダゾール)

 

以上、緑茶の細菌感染症に対する効果について触れましたが、以前、「口腔ケアの可能性」でも触れた通り、中でも歯周病の予防や治療は、ウイルス感染症の予防や、心臓疾患や脳血管疾患を始めとした慢性疾患の予防につながることを考えると、歯周病対策における口腔ケアの一手段として緑茶を効果的に利用したいものです。

 

今回、緑茶への期待と題して3回に分けて書いてきましたが、印象に残ったのが、お茶の本場である静岡県発の研究が非常に多かったことです。

 

郷土の特産品を、研究を通して日本国内だけでなく世界に向けてアピール(自慢)できるなんて素晴らしいですね。

 

緑茶は日本が誇る超健康食品です。日本人でありながら緑茶には無縁だなんて、なんともったいない気がします。

 

新緑の季節となりましたが、食卓も大いに緑に染めようではありませんか!


2020年5月2日(土)

 第160話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待 パート2
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


前回に引き続き、緑茶に含まれるカテキンによる感染症の予防効果についてです。

 

今回は、飲んだカテキンが体内でどのように吸収・代謝されるのかという点と、風邪やインフルエンザに対してどれくらいの予防効果があるのかという点について書いていきます。

 

●飲んだカテキンの吸収・代謝

前回書いた通り、緑茶に含まれるカテキンには、エピガロカテキンガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピカテキン(EC)4種類あり、中でもEGCGは最も主要な、最も生理活性が強いカテキンです。

 

ある実験によると、健常者が緑茶1杯を飲むと、12時間後には血液中の遊離型(活性型)EGCGの濃度が最大になり、その後、速やかに低下し12時間後にはほとんど血中から消失します。

 

おそらく、消化管からのカテキンの吸収量は摂取量の5〜8%で、血中に移行するものは2%程度と見積もられています。

 

胃を含む小腸で吸収されたカテキンは、肝臓で他の物質と結合し安定した形に変化(抱合化と言います)し、最終的には便(胆汁から)や尿として排泄されますが、EGCGは抱合化を受けない遊離型として、生理活性の強い状態で体内に存在できるようで、マウスへの投与実験では全身の幅広い組織に移行することが確認されています(この点に詳しい方がいらしたら教えてください)

 

●緑茶を飲むことと風邪の予防効果

以下は、日本で行われた無作為化比較試験(二重盲検ではない)です。

健常な270人のヘルスケアワーカー(平均約43歳)を、高用量のカテキンを飲む群(57rを13回)、低用量のカテキンを飲む群(57rを11回)、カテキンを飲まない群(プラセボ群)に分けて12週間、上気道炎の罹患について調べた研究では、上気道炎の罹患率は、プラセボ群で26.7%、低用量群28.2%、高用量群13.1%で、高用量群で有意に上気道炎の罹患率が少なかった(プラセボ群に対するハザード比0.46

 

●緑茶を飲むこととインフルエンザ予防効果

日本で行われた観察研究です。

6〜13歳の小学生2050人を対象に、1日何杯(1200ml)の緑茶を飲むのか質問し、緑茶を飲む回数とインフルエンザの罹患率について調査した研究では、113杯未満、35杯飲む群では、11杯未満の群に比べて有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比はそれぞれ0.620.54)。また、1週間に6日以上飲む群は、3日未満の群に比べて有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比は0.60)。

 

日本で行われた二重盲検無作為化比較試験です。

健常なヘルスケアワーカー197人(平均約43歳)を対象に、1日カテキン378r+テアニン210r(テアニンも緑茶に含まれる成分)を飲む群と、飲まない群(プラセボ群)に分けて、5か月間インフルエンザの罹患率について調べた研究では、インフルエンザの罹患率は、プラセボ群13.1%に対しカテキン+テアニン群4.1%で、カテキン+テアニン群で有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比0.25

 

●緑茶をうがいすることとインフルエンザ予防効果

複数の報告がありますが、緑茶のうがいはインフルエンザの予防効果があったとする報告と、予防効果は認められなかったとする報告があり、相反する結果となっています。以下は、それらの研究を統合したメタアナリシスという日本の研究の結果です。

 

緑茶のインフルエンザの予防効果について調べた5つの研究(16歳〜83歳の1890人)を集めて解析すると、緑茶によるうがいはインフルエンザ感染症のリスクを有意に低下させていた(相対危険度0.7)。

 

以上をみていくと、緑茶(カテキン)の風邪やインフルエンザに対する予防効果は、飲む量と回数が増えると(理想的には毎日13杯以上)、高まることが示されています。

 

この理由の一つとして、先に書いた通り、カテキンを単回飲んだだけでは血中に移行する割合が低いことや、血中に移行しても遊離型カテキンの濃度は速やかに低下し、組織に留まる時間が短いことが関係しているように思います。

 

メタアナリシスの結果でも、緑茶のうがいによるインフルエンザの予防効果が示されていますが、その効果は、メタアナリシスに含まれている個々の論文を見ても緑茶を飲むよりも低いという結果でした。また、このメタアナリシスでは、研究や対象者の数がバイアス(研究結果を間違った方向に誘導させるような因子)を否定するためにまだ不十分なようです。

 

カテキンによる感染症の予防効果というのは、口腔内や咽頭粘膜に残った成分による直接的な効果と、消化管から吸収され組織に移行した成分による間接的な効果があるように思えますが、カテキンの感染症以外の多彩な効果(抗酸化作用、抗アレルギー作用、コレステロール低下作用、抗腫瘍作用など)を考えると、うがいをするよりも、こまめに飲んだ方がその多彩な効果を引き出すことができるのではないでしょうか。

 

また、日常生活では、うがいができる場所は限られ、接触感染に注意しながらペットボトルでこまめに緑茶を飲む方が実用的です。

 

今回は、緑茶(カテキン)と風邪やインフルエンザによるウイルス感染症との関係について書きましたが、実験室レベルでは、このほかにも様々なウイルス(B肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、HIVウイルス、デング熱ウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス・・・)対するカテキンの抗ウイルス作用が報告されています。

 

これを書いているうちに、緑茶を飲みたいという欲求がふつふつと沸き上がってきました。

 

最近は、家族にしつこく緑茶を勧めるので、煙たがられてソーシャルディスタンスを維持している私です。

 

次回は、緑茶(カテキン)と細菌感染との関係について取り上げたいと思います。


2020年4月29日(水)

 第159話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談などは行っておりませんので、どうかご了承下さるようお願い申し上げます。

 

緑茶に含まれるカテキンが、ウイルスの表面たんぱくに結合して病原性を阻害して抗ウイルス作用を持つことは知られていますが、新型コロナウイルスに対しても効果があるのかいまだ実証はされていません。

 

しかし、このほど、分子ドッキング法というコンピューターを使った解析で、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用が期待されている、カテキンを含む18種類の食品成分を検証した研究結果が発表されました。

 

分子ドッキング法とは、病気と関係しているたんぱくの分子(標的分子)と薬として候補になる成分分子(リガンド)の結合性を理論と計算によって予測する手法で、創薬(新しい薬を開発するために行われる一連のプロセス)の研究に用いられています。

 

以下に研究の概要を示します。

 

インドERA大学の研究チームは、データバンクに登録されているたんぱくの中で、新型コロナウイルスの病原性・増殖性に関与していると考えられる7種類の表面たんぱくの分子構造と、登録されている18種類の食品成分の化学構造をもとに、ウイルス表面たんぱくと各成分の結合部位、結合後の分子の立体構造や安定性、その親和性などをコンピューター解析し、治療薬候補になる食品成分を分析した。また、新型コロナウイルスの治療候補薬として挙げられているレムデシビル(エボラ出血熱の治療薬として開発され新型コロナウイルスの治療薬候補の一つ)、クロロキン(マラリアの治療薬で新型コロナウイルスの治療薬候補の一つ)と比較を行った。

 

その結果、この18種類の食品成分のうち、緑茶に含まれているエピガロカテキンガレート(EGCG)は、7種類の新型コロナウイルス表面たんぱくのすべてに最も高い結合親和性(結合してその活動を阻害する力)を示し、抗ウイルス効果がもっとも期待できる成分と考えられた。

 

また、研究の結果、以下のようにEGCGを含む9種類の成分が、新型コロナウイルスの有力な治療薬候補として挙げられた(カッコ内はこの成分を含む食品)。これらは、いずれもレムデシビルやクロロキンよりも高い親和性を有していた。

 

EGCG(緑茶)

2クルクミン(ウコン)

3アピゲニン(カモミール茶、パセリ、セロリ)

4ベータグルカン(オート麦の食物線維、きのこ)

5ミリセチン(パセリ、オレンジ)

6ケルセチン(赤玉ねぎ、リンゴ、ブロッコリ、かんきつ類)

7ピペリン(黒コショウ)

8ゲニステイン(大豆)

9ジアゼイン(大豆)

 

また、新型コロナウイルスは、ヒトの細胞の表面にあるACE-2受容体を介して感染しますが、私がこの研究で最も注目したのは、EGCGは、ACE-2受容体に結合するウイルスの突起たんぱくへの結合力が最も強く、最も強力な阻害作用を持つ可能性を示した点です。

 

この論文で推奨しているEGCGの飲み方です。

1800mg

●沸騰した湯で3分間お茶の成分を抽出する(80℃の湯で入れるとEGCGの抽出がもっとも高いとのこと)

134回に分けて4.5時間間隔で飲む(熱いので、冷ましながら飲んでもOKだと思います)

 

ちなみに、日本カテキン学会によれば、緑茶から抽出されるカテキンの種類とその割合は、エピガロカテキンガレートEGCG59.1%)、エピガロカテキンEGC19.2%)、エピカテキンガレートECG13.7%)、エピカテキンEC6.4%)となっており、EGCG4種類のカテキンの中でも主成分となっています。

 

この論文は、まだ査読(ほかの研究者により研究方法や解析方法などを吟味される過程)を受けていない段階にあることと、あくまで理論とコンピューター上の解析結果に基づくものなので注意が必要ですが、カテキンは新型コロナウイルスに対する治療や予防の選択肢として大きな期待が寄せられています。

 

皆さんの中には、濃い緑茶の苦みや熱いものは苦手という方もいるでしょう。

 

そんな方は、あまり難しく考えないで、粉末の緑茶を使って濃度、量、温度を思い思いに調整して味わってみてはどうでしょうか?

 

これを機に、緑茶を楽しんでみませんか?

 

次回は、カテキンの人体での吸収と代謝、臨床試験で明らかになっているその他の感染症の予防効果について触れたいと思います。


2020年4月25日(土)

 第158話 新型コロナウイルスに備えるために−よく噛んで食べよう!パート3
投稿:院長

※このブログの内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


外出の自粛で、自宅の中で過ごす時間が増えていますが、そんな中でも健康的な生活ができるよう、自宅で誰でもできる健康法について触れたいと思います。

 

よく噛んで食べよう!の第3回目は、噛むことが認知機能や精神面に与える効果について紹介します。

 

●噛む機能と認知症との関係について

これについては、数多くの研究結果が報告されていますが、高齢者の歯の本数と認知症との関連を調べたものが多いです。その中で代表的な報告を紹介します。

 

65歳以上の日本人高齢者4425人を対象に、歯のケア状況(残歯の数、義歯の使用状況、咀嚼機能、かかりつけの歯科医の有無、セルフケアの有無)とその後の認知症発症について、4年間にわたって調査した研究では、残歯が少なくかつ義歯を持たないこと、かかりつけの歯科医の不在なことが認知症発症のリスクであった(調整ハザード比はそれぞれ1.851.44)。

 

日本人の高齢者2335人を対象に、残歯の数とその後の軽度認知機能障害の発症について5年間にわたって調査した研究では、歯を1本失うごとに軽度認知機能障害のリスクが高くなり(1本あたりオッズ比1.02)、歯をすべて失うと2532本の歯が残っている場合に比べて有意に軽度認知機能障害に進展しやすいことが示された(オッズ比2.39)。

 

この他、歯をすべて失っても、義歯と義歯が外れないようなインプラントを取り付けると咀嚼力が増し、その後の認知機能のスコア(MMSE)が改善することが報告されています。

 

また、脳MRIなど画像検査を使った研究では、咀嚼すると大脳皮質の血流が増え、体性感覚、補足運動野、島皮質、線条体、視床、小脳という運動や感覚に関係する脳の重要な部分が活性化することが明らかになっています。

 

この他、噛むことが記憶をつかさどる海馬をはじめとした脳の様々な領域と関連していることが数多く報告されています。

 

●噛むことと精神状態の変化について

精神状態との関係では、ガムを噛むことが精神状態にどのような影響を与えるのか調査した研究が数多く報告されています。

 

英国の研究では、101人の対象者に対し、ガムを噛むことが精神状態にどのような影響を与えるのか調査した。その結果、一定時間ガムを噛むと、仕事や仕事以外のストレス、疲労、不安、憂うつが軽減して気分が前向きになり、仕事と仕事以外のパフォーマンスが向上した。

 

英国の研究では、30人の対象者に対し、20分間の複数のストレスを与えて、その前後の唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)、主観的なストレス、不安、落ち着き、満足感、注意力を調べた。その結果、ガムを噛むと噛まない場合に比べて唾液中のコルチゾールの分泌と主観的なストレスが減少した。

 

その他、ガムを噛むと集中力や注意力が増すことも報告されています。

 

●噛むことと痛みの変化について

セロトニン神経は、痛みの伝導を抑制する働きに関係しているが、日本の研究では、被検者に対して足の腓腹神経に電気刺激を与えて痛みを誘発し、20分間ガムを噛むと(噛まない場合に比べて)、痛み反射、主観的な痛み、血漿セロトニンの濃度がどのように変化するか調べた。その結果、ガムを噛み始めた5分後から、痛みの面積と主観的な痛みが減少し、ガムを噛み終わるまでその効果が持続した。セロトニンレベルは、ガムを噛み終わった直後から上昇し、30分後にもとのレベルに戻った。これは、ガムを噛むことにより増えた脳内のセロトニンが、脳血管関門にあるセロトニントランスポーター(出入りを制御するたんぱく)を介して血液中に分泌されているものと考えられ、活性化したセロトニン神経が痛みの抑制に働いていることが示唆された。

 

ペンフィールドのホムンクルスといって、大脳の運動と感覚をつかさどる領域のうち、どの部分が身体のどの部分に対応しているのか示した有名な脳地図があるのですが、これを見ると口腔や顔面の領域だけで全体の約50%!という大きな割合を占めていることがわかります。

 

口腔や顔面というのは、とても多くの脳神経と関連しているのですね。

 

ガムは虫歯の原因になるのでは?と考えてしまうのですが、最近はキシリトールが配合されている数多くの商品(トクホに認定されている商品もあり)が発売されています。

 

キシリトールは天然由来の甘味料ですが、砂糖のように歯を溶かす酸を産生することがなく、虫歯の原因菌であるミュータンス菌の活動を阻害する働きがあり、虫歯の予防効果が期待できます。

 

ただ、専門家の話では、90%以上配合されたものでないと虫歯の予防効果がないこと、食べ過ぎると下痢を引き起こすので注意が必要だそうです。

 

某メーカーの宣伝ではありませんが、毎日20分間の「お口の恋人」はいかがでしょうか?



2020年4月21日(火)

 第157話 新型コロナウイルスに備えるために−新たな知見をもとに感染対策を再考する
投稿:院長

※このブログの内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

3月中旬以降、新型コロナウイルスの感染様式に関する研究結果が次々と報告されていますが、新しい知見をもとに感染対策を再考してみました。

 

【新型コロナウイルス感染症患者を治療する病棟内のウイルスをPCR検査で調べた研究】

410日にEmerging Infectious Disease Journalに掲載された論文より。

新型コロナウイルス感染症患者を治療する中国の病棟内で、空気中と器具表面のウイルスの有無をPCR検査で調査した。

 

ICUでの空気中のウイルスPCR陽性率は、患者の頭部から1m離れている通気口の出口35.7%、患者の頭部から1m離れているベッド周辺44.4%、患者の頭部から4m離れている医師の事務作業空間(室内の気流の上流に位置)12.5%であった。

 

器具表面でのウイルスPCR陽性率は、コンピューターマウス75%、ゴミ箱60%、ベッドの手すり42.9%、患者のマスク40%、ドアノブ8.3%、医療スタッフの手袋25%、医療スタッフの袖16.7%、医療スタッフのシューズの底50%であった。

 

PCR陽性が必ずしもウイルスの感染力を反映したものでない点に注意が必要ですが、この調査からわかることは、@新型コロナウイルスはエアロゾルを介して、気流の上流であっても4mの距離を移動しうること、Aしたがって、2m以内でしか感染しないものを飛沫感染、2m離れても感染するものを空気感染(飛沫核感染)と定義すると、新型コロナウイルスは空気感染を起こす可能性があること、B人が共用する器具(コンピューターマウスなど)やごみ箱のウイルス陽性率が高いこと。

 

【エアロゾル中の新型コロナウイルスの感染性を調べた研究】

317日にNew England Journal of Medicineに掲載された論文より。

気温2123℃、湿度65%の環境下で、ネブライザーを使って人為的に新型コロナウイルスを含むエアロゾルを密閉した円筒内に発生させ、経時的に空気中に含まれるウイルス量(感染価)を調査した。その結果、経時的にウイルス量の減少は見られたものの、3時間後にも感染価が維持されていた。

 

この研究からわかることは、@密閉した空間では、ウイルスは3時間空気中を漂い感染力を維持する可能性があること。

 

【サージカルマスクの効果を調べた研究】

43日にNature Medicineに掲載された論文より。

気道症状がありPCR検査でコロナウイルス(新型ではなく風邪の原因である季節性コロナウイルス)が陽性となった17人の患者を、サージカルマスク(※)を着用した群とマスクを着用しない群に分けて、30分間、呼気中に含まれる飛沫(5㎛以上の大きさと定義)とエアロゾル(5㎛未満の大きさと定義)に分けて分析し、それぞれでウイルスが検出されるか調査した。患者は30分間に平均17回の咳をした。

 

※サージカルマスクとは、医療従事者が一般的に着用する不織布マスクで、現在、家庭用として出回っている不織布マスクもかなり高品質なものが出てきているようです。

 

以下に結果を示す。

マスクをしない群では、30%(3/10)の飛沫、40(4/10)のエアロゾルからコロナウイルスが検出された。

一方、マスクをした群では、飛沫からも、エアロゾルからもウイルスが全く検出されなかった(いずれも0/11)。

 

新型コロナウイルスを実験対象としたものではないという点に注意が必要ですが、この実験からわかることは、@コロナウイルスに感染した人がマスクを着用すると、高い拡散防止効果が期待できる可能性があること、Aコロナウイルスは飛沫だけでなく、呼気中のエアロゾル中にも含まれうること、Bマスクをしない場合でも、すべての飛沫やエアロゾルにウイルスが含まれているわけではなく、他人へ感染を起こすためには長時間にわたる濃厚な接触が必要である可能性が高いこと。

 

【新型コロナウイルスが、様々な環境下でどこまで感染力を維持できるか調べた研究】

42日にThe Lancet Microbeに掲載された論文より。

●気温と感染力の持続時間

一定の濃度のウイルスを含む検体を様々な気温下におき、どこまで感染力を維持できるか14日間にわたって調べた。以下に結果を示す。

気温が4℃では、14日後まで感染力を維持。

気温が22℃では、7日後まで感染力を維持。14日目に感染力が消失。

気温が37℃では、1日後まで感染力を維持。2日目に感染力が消失。

 

●材質の違いによる感染力の持続時間

室温22℃、湿度65%の環境で、一定の濃度のウイルスを含む少量の液体を各物質の表面に滴下し、材質の違いによりどこまで感染力を維持できるか7日間にわたって調べた。以下に結果を示す。

コピー用紙とティッシュペーパーでは、30分後まで感染力を維持。3時間後に感染力が消失。

木材と布では、1日後まで感染力を維持。2日目に感染力が消失。

ガラスと紙幣では、2日後まで感染力を維持。4日後に感染力が消失。

ステンレスとプラスチックでは、4日後まで感染力を維持。7日後に感染力が消失。

サージカルマスク内側では、4日後まで感染力を維持。7日後に感染力が消失。

サージカルマスク外側では、7日後まで感染力を維持。

 

●消毒液による効果

室温22℃の環境下で、一定濃度のウイルスを含む少量の液体を一定量の各消毒液に滴下し、消毒液の違いにより、どこまで感染力を維持できるかを調べた。以下に結果を示す。

家庭用漂白剤(次亜塩素酸のことか?)50倍希釈、家庭用漂白剤100倍希釈、ハンドソープ液50倍希釈、70%消毒用エタノール、0.1%ベンザルコニウム塩化物液で調べた結果、ハンドソープ液のみ、一部の検体で5分後に感染性が維持されていたが、それ以外はすべての消毒液で5分後には感染力を失っていた。ちなみに、人体の消毒に用いられる7.5%ポピヨンヨードや0.05%クロルヘキシジンも同様に有効であった。

 

この実験からわかることは、@新型コロナウイルスはインフルエンザとは異なり、22℃、50%以上の環境下でも長時間感染力を維持すること、A特にプラスチックなどの表面が滑らかな材質では長時間感染力を維持すること、Bサージカルマスクに付着したウイルスは長時間感染力を維持すること、C身の回りにある消毒液は有効なこと。

 

【最近の研究から見えてくる感染対策】

●空気感染・飛沫感染対策

@新型コロナウイルスは長時間空気中を漂って、2m以上の距離でも空気感染するという前提に立ち、密閉、密集、密接の一つでも当てはまる場所は極力避けましょう!

A温暖化による終息を期待せず、むしろ温暖になることを利用して積極的に窓を開けて換気しましょう!(部屋だけでなく車の窓も開けましょう)

BWHOは感染していない人のマスク着用を推奨していませんが、無症状感染者の多い新型コロナウイルスの場合は、自分も感染しているかもしれないという前提に立って、誰でも積極的にマスクを着用しましょう!


●接触感染対策

C消毒していないマスクの使いまわしは絶対に避けましょう!

D消毒液を使って、特にプラスチックなどの滑らかな器具の接触面を消毒しましょう!(ゴミ箱やマウス・タブレットも忘れずに消毒しましょう)

 

※このブログの内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


2020年4月16日(木)

 第156話 新型コロナウイルスに備えるために−よく噛んで食べよう!パート2
投稿:院長

前回に引き続き、健康的な食生活を送るために、よく噛んで食べる大切さについて触れたいと思います。

 

●食事を30回咀嚼する根拠は?

130回噛みましょう」と聞くことが多いのですが、30回という数字はどこから来ているのでしょうか?

 

咀嚼というのは食事を噛み砕いて、唾液と混ぜ合わせるという一連の作業ですが、咀嚼が進むと食片の間のスペースが狭くなり、そのスペースに唾液が隙間なく入り込むと食片が密になり(この働きには唾液中のムチンという成分が欠かせません)、しっかりとした食塊ができて飲み込みやすい状態となります。このしっかりとした食塊の度合いを「凝集力」と表現するそうですが、咀嚼が多すぎると唾液が過剰となって凝集力が低下するので、適度な咀嚼回数が求められることになります。

 

日本咀嚼学会では、食片を土に例えて、乾燥した土は塊を形成しませんが、水を含むと塊を作りやすくなり、逆に水が多すぎると崩れやすくなってしまう、とわかりやすく表現しています。

 

ということで、香港大学の研究者が、どんな食品にも最適な咀嚼回数があると予測して実験し、1997年に報告しています。

 

彼らは、生のニンジンとナッツという全く別の食物を使って実験したところ、生のニンジンで平均31回、ナッツで25回咀嚼すると凝集性がピークになることを明かにしました。

 

この数値は、すべての食品に当てはまらないかもしれませんが、古くから言われてきた30回という数字の根拠を初めて示した研究になるのかもしれません。

 

●咀嚼回数の肥満予防効果

一口の食事を35回咀嚼した群と、10回咀嚼した群で比較した研究では、35回咀嚼すると食事時間が2倍になったにも関わらず、満腹と感じるまでの食事量が減少したことが示されています。

 

その他、早食いが肥満と強く関係していることが多数の論文で報告されています。

 

しかし、実際に咀嚼回数を増やすと肥満の予防や改善につながるのか、まだ十分に明らかにされていないようで、今後の研究が待たれるところです。

 

●咀嚼力と糖尿病の関係

40歳から74歳の成人6827人を対象に、咀嚼力(咀嚼力に応じて4つのグループに分ける)と糖尿病のリスクを調べた日本の観察研究は、咀嚼力が最も強い群では、最も弱い群に比べて糖尿病のリスクが男性で47%、女性で44%低下することが示されています。

 

●咀嚼力とメタボリック症候群の関係

50歳から70歳の成人1780人を対象に、咀嚼力(咀嚼力に応じて4つのグループに分ける)とメタボリック症候群のリスクを調べた日本の観察研究は、咀嚼力が最も強い群に比べて、弱い他の3つの群でメタボリック症候群のリスクが1.211.46倍に増加することが示されています。

 

咀嚼回数や咀嚼力が、これら人の代謝に与える効果について、@咀嚼力のある人は、血糖の上昇を緩やかにする食物繊維の摂取量が増える傾向にあること、A普段から咀嚼の回数が多くて固いものを食べていると食後の熱の産生が促されること、B咀嚼回数が多いと早食いを予防し、食欲を抑えるレプチン、ヒスタミン、GLP-1などのホルモンの分泌が促されること、などがその主な要因として考えられています。

 

●咀嚼力と死亡率の関係

65歳以上の高齢者1405人を7年間追跡した日本の観察研究は、自己評価で咀嚼能力の低い人は、有意に死亡率が有意に高かったと報告しています(調整ハザード比1.63

 

また、65歳以上の高齢者4425人を4年間追跡した日本の観察研究は、残存歯が20本以上の人に比べて19本以下で食べにくい食事のある人は、心血管性疾患、呼吸器系疾患による死亡率がいずれも有意に高かったと報告しています(それぞれ調整ハザード比は1.831.85)。

 

以上、日本人による咀嚼に関連した研究はとても多く、日本は「咀嚼研究大国」と言ってよさそうです。

 

グルメ番組で、レポーターが発する「柔らかくておいしい〜」とか「まろやかな味わいですね〜」という言葉に共感するのではなく、咀嚼研究大国に住んでいる日本人として「噛み応えがありますね〜」という言葉に強く共感できるようになりたいものです。

 

この機会に、食事内容だけではなく「食事作法」について改めてみませんか?

 

次回は、咀嚼と認知機能や精神状態の関係について触れてみたいと思います。


※ここに掲載された内容について、電話による個別の相談などは

行っておりませんので、ご了承下さるようお願い申し上げます。


2020年4月14日(火)

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