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 第165話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−なんでも効いてしまうスーパー抗生物質の使い方−
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

皆さんは、どんな細菌感染症にでも効いてしまうスーパー抗生物質があったら、すごいと思うかもしれません。

 

1942年にペニシリンが実用化されて以来、より広範囲の細菌をカバーできる抗生物質が理想とされ、開発が進められてきました。

 

その中でも、フルオロキノロン系抗菌薬は、肺炎球菌を含めたグラム陽性菌、緑膿菌を含めたグラム陰性菌、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラといった市中の感染症の病原体のほとんどをカバーし、さらに、腸管からの高い吸収率、組織への高い移行性、11回の内服でよいという利便性を兼ね備えた抗生物質として市場でのシェアを拡大してきました。

 

日本では、現在10種類のフルオロキノロン系抗菌薬が使用され、中でもレボフロキサシン(クラビット)はその使用量の半数以上を占め、私が知る限り、肺炎はもちろん、咽頭炎、気管支炎、尿路感染症、胆道感染、腸管感染症、皮膚感染症など、人体のあらゆる部位の感染症に対して、病院やクリニックの外来で広く使われています。

 

しかし、このようなスーパー抗生物質といえど、薬剤耐性の問題を克服することはできず、耐性菌の増加が年々深刻化してきているのです。

 

●日本での多剤耐性菌による死亡者数

2017年の厚生労働省院内感染症対策サーベーランスをみると、大腸菌のフルオロキノロン系抗菌薬の耐性率は40.1%にまで上昇していることが示されています。

 

さらに、2019年に、AMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンターから、日本での薬剤耐性菌の菌血症による死亡数の推定が初めて発表されています。

 

それによると、薬剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症による死亡数は2017年に4224名、フルオロキノロン耐性大腸菌による死亡数は2017年に3915名と推定されました。

 

そして、年度別の推移をみると、MRSAによる菌血症による死亡者は年々低下傾向なのですが、フルオロキノロン耐性大腸菌による死亡数は年々増加していることが示されています。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬と耐性菌発生との関係

海外では、フルオロキノロン系抗菌薬が、薬剤耐性菌の発生にどのような影響を及ぼしているのか調べた研究が複数報告されており、以下に紹介します。

 

研究チームは、クロストリジウムディフィシル菌による偽膜性腸炎の入院患者200人に対する観察研究を行った。その結果、60日以内に43人の患者に偽膜性腸炎の再発が認められ、年齢、薬剤、腎機能障害、免疫不全、併存疾患、以前の入院歴など様々な因子を解析した結果、フルオロキノロン系抗菌薬の使用が、唯一再発のリスク因子であった(調整オッズ比2.9)。

 

研究チームは、プライマリ・ケアの現場で使われる抗生物質が、入院患者の多剤耐性グラム陰性菌の発生にどのように影響があるのか症例対照研究を行った。

多変量解析で分析した結果、プライマリ・ケアの現場における第三世代セファロスポリン系抗菌薬(これも広範囲の細菌に効果のある薬剤として汎用されています)とフルオロキノロン系抗菌薬の使用が、入院患者の多剤耐性菌の発生と有意に関連していた(P=0.004)。

 

研究チームは、市中で発生した薬剤耐性(ESBL産生)腸内細菌による血流感染のリスク因子を調べるため、945人の患者群と9390人のコントロール群による症例対照研究を行った。

その結果、過去3か月以内のフルオロキノロン系抗菌薬の使用が、ESBL産生腸内細菌による血流感染と有意に関連していた(調整オッズ比5.52)。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬使用の見直し

以上の流れの中で、日本でもフルオロキノロン系抗菌薬の使用を見直す機運が高まり、2016年にAMR(抗生物質耐性)対策アクションプランが採択され、2020年までにフルオロキノロン系抗菌薬の使用量を50%減らし、大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下とする数値目標が掲げられました。

 

また、2016年に米国食品医薬品局(FDA)から医療従事者向けに、フルオロキノロン系抗菌薬に対する安全情報と勧告が出されています。

 

それによると、フルオロキノロン系抗菌薬は、腱(腱炎、腱断裂)、筋肉(筋肉痛、筋力低下)、関節(関節痛、関節腫脹)、末梢神経(末梢神経障害)、中枢神経(けいれん、めまい、抑うつ、幻覚など)への不可逆的・永続的な副作用のリスクと関連し、急性副鼻腔炎、急性または慢性気管支炎、合併症のない尿路感染症の治療において、利益よりも副作用のリスクが上回るとして、他に治療の選択肢がない場合を除いて、全身投与を行わないように勧告しています。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬が第一選択となる病態

ここでは、フルオロキノロン系抗菌薬の代表的な薬剤であるレボフロキサシン(クラビット)とシプロフロキサシン(シプロキサン)について、市中感染症の場面を想定して、考えたいと思います。

まず、レボフロキサシンの使用が第一選択となる場面は、気道感染症の中では、レジオネラ肺炎や、アレルギーなどで他の抗生物質が使用できない場合の細菌性肺炎(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌など)など、かなり限られた病態だけになるものと考えられます。咽頭炎、中等症以上の副鼻腔炎、皮膚の感染症に対しては、他の抗生物質が使用されるべきです。また、大腸菌による尿路感染症をはじめとする腸内細菌感染症に対しては、もはや使用を控えるべきと思われます。

 

次に、シプロフロキサシンの使用が第一選択となる場面は、グラム陰性菌の感染症の中でも、外来や他の抗菌薬が使用できない場合の緑膿菌感染症など、かなり限られた病態だけになるものと考えられます。グラム陽性菌による感染症に対しては、他の抗生物質が使用されるべきです。

 

今まで、オールラウンドな作用を持つ抗生物質が理想とされ、フルオロキノロン系抗菌薬はその代表格として、外来診療でも広く活用されてきました。しかし、本来は重症細菌感染症の切り札としての役割を担うべき抗生物質を、軽症のありふれた感染症に対して最初から投与するやり方を変えるべき時が来ています。

また、オールラウンドというのは、人体と共生している細菌に対しても無差別に抗菌力を発揮し、病原性の強い耐性菌の発生につながりやすいという危険性を孕んでいます。

したがって、これからは、オールラウンドな抗菌力を持つ抗生物質よりも、狭い範囲の細菌にしか効かないけれど、それが得意とする感染症に対してしっかり効いてくれる職人のような抗生物質を選んで、上手に使いこなしていく時代なのです。

 

新型コロナウイルス感染症が流行している中であっても、私達は、それ以外の様々な感染症と付き合っていくことになります。その中で、私達には、必要とする人にだけ抗生物質を使用し、適切な抗生物質を選択するという姿勢求められています。そして、必要でない人には、抗生物質を使用しないことも将来につながる立派な医療だということを忘れてはいけません。

 

次回は、気道感染症を中心とする抗生物質の選択や治療期間について触れたいと思います。


2020年5月16日(土)

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