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 第164話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−あまり知られていない重い副作用について−
投稿:院長

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

前回は、抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響を中心に書きましたが、今回は、抗生物質による副作用についてです。

 

一般的に、よく知られている抗生物質による副作用には、投与直後のアレルギー、薬疹、肝機能障害などがありますが、これ以外にあまり知られていない副作用について挙げてみたいと思います。

 

●抗生物質の使用とアレルギー疾患発症との関係

次に紹介するのは、抗生物質とアレルギー疾患の関連を調査した日本の研究です。

研究チームは、2004年から2006年に生まれた新生児1550人を対象に観察研究を行った。

その結果、2歳までに抗生物質の投与を受けた群では、5歳までに喘息、アトピー性皮膚炎、鼻炎を発症するリスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ1.721.401.65)。

抗生物質の種類別にアレルギー疾患発症との関係をみると、セフェム系抗菌薬が喘息と鼻炎の発症と関連し(調整オッズ比はそれぞれ1.971.82)、マクロライド系抗菌薬がアトピー性皮膚炎の発症と関連していた(調整オッズ比1.58)。

 

以下は、抗生物質と食物アレルギーの関連を調査した研究です。

研究チームは、2007年から2009年に生まれた7499名の乳児を対象として、食物アレルギーについての症例対照研究を行った。

その結果、生後1年以内に抗生物質の処方を受けた子供は、抗生物質の処方を受けない子供に比べて有意に食物アレルギー発症のリスクが高かった(調整オッズ比1.21)。

さらに、生後1年以内に抗生物質の処方機会が増えるほど、食物アレルギー発症のリスクが高まった(3回、4回、5回以上の調整オッズ比はそれぞれ1.311.431.64)。

また、抗生物質の種類別の食物アレルギーの発症リスクは、セフェム系、マクロライド系、ペニシリン系の順に高かった(調整オッズ比はそれぞれ1.501.361.19

 

いずれも、幼少期での抗生物質の使用は、アレルギー疾患の発症と関連していることを示す結果となっています。この理由として、前回のブログで紹介した通り、抗生物質が腸内細菌のバランスに影響を及ぼし(ディスバイオーシス)、その影響が長期に及ぶことが考えられています。

 

●抗菌薬の使用と心血管疾患・死亡との関係

以下は、抗生物質の使用と心血管疾患・死亡との関係を調査した観察研究です。

研究チームは、36000人以上の60歳以上の女性を対象とし、各対象者が若年(20歳から39歳)、中年(40歳から59歳)、高年(60歳以上)の期間中に、どれくらいの期間にわたって抗生物質投与を受けたのかを、投与を受けていない群、1日から15日未満の期間で投与を受けた群、15日から2か月未満の期間で投与を受けた群、2か月以上の投与を受けた群の4つの群に分けて、平均7.6年間観察を行った。

その結果、中年と高年で15日以上の抗生物質の投与を受けると心血管疾患の発症リスクが有意に高かったが、中年の期間中に2か月以上の抗生物質の投与を受けた群と、高年で2か月以上の抗生物質の投与を受けた群では、特に心血管疾患の発症リスクが高かった(調整ハザード比は1.281.32)。

 

また、中年の期間中と高年で2か月以上の抗生物質投与を受けた群は、有意に死亡リスクが高かった(調整ハザード比はそれぞれ1.271.19

 

この研究は観察研究なので、必ずしも因果関係を証明しているわけではありませんが、抗生物質の投与期間が長いほど、女性の心血管疾患や死亡リスクと関連していることが示されています。特に、40歳から59歳の期間中に抗生物質の投与を受けた場合でも、60歳以上になってからの心血管疾患や死亡リスクと関連していることは衝撃的でした。

この理由として、腸内細菌フローラのディスバイオーシスにより、動脈硬化の進行や血小板機能を亢進させる代謝産物が関係している可能性が示唆されています。

 

●抗生物質の使用とがん発症との関係

以下は、抗生物質の使用とがんの発症との関係を調査した観察研究です。

研究チームは、住民登録された300万人以上の30歳から70歳の成人を対象として、1995年から1997年にかけての抗生物質の処方を受けた回数を01回、25回、6回以上の群に分けて、その後、1998年から2004年までの期間中のがんの発症との関連を調査した。

その結果、01回の群に比べると、25回、6回以上の群で有意にがんの発症率が高かった(相対危険度はそれぞれ1.271.37)。また、部位別では、01回の群に比べ、25回の群と6回以上の群での相対危険度はそれぞれ、前立線がん:1.361.39、乳がん:1.161.14、肺がん:1.321.79、結腸がん:1.171.15と有意差を認めた。

 

この研究では、抗生物質の処方を受けてから比較的短い間隔をおいて追跡が始められており、もともと潜在的に存在していたがんに関連する感染症により抗生物質が使用された可能性や、喫煙の影響(特に肺がん)などが無視できず、抗生物質が必ずしもがん発症の原因になっているとは言い切れない点に注意が必要です。しかし、観察開始から少なくとも5年間がんを発症しなかった対象者に絞った分析でも、抗生物質の処方とがんの発症に関連性が認められたことや、喫煙の影響を受けないとされる皮膚がん、甲状腺がんなどでも抗生物質の処方とがんの発症との関連が示されており、抗生物質を含めた様々な因子ががん発症に関連しているものと思われます。

さらに、この論文では、抗生物質ががん発症の誘因となるメカニズムについて、1)抗生物質自体に発がん性があること、2)腸内細菌フローラに影響を及ぼし、発がんに関わる病原菌の増殖やがんの抑制に働くファイトケミカルを減少させること、4)直接的または腸内細菌を介した間接的な経路でがんに対する免疫機能を低下させること、などの可能性を挙げています。

 

●抗生物質の使用と不整脈発症・死亡との関係

以下は、抗生物質の使用と不整脈や死亡との関係を調査した観察研究です。

研究者は、国民健康保険に登録された20歳から99歳までの1000万人以上を対象者として、2001年から2011年にかけてマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシン)、フルオロキノロン系抗菌薬3種類(シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンクラブラン酸)の投与を受け、投与開始7日以内の心臓疾患の発症について調査した。

その結果、アジスロマイシン、モキシフロキサシンの使用群は、アモキシシリンクラブラン酸の使用群に比べて心室細動の発症リスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ4.323.30)。また、アジスロマイシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシンの使用群は、アモキシシリンクラブラン酸の使用群に比べて心血管死のリスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ2.622.311.77)。

 

薬剤による心室細動の発症頻度は稀ですが、マクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬の使用は、心室細動の原因となりうるQT延長症候群の原因となることが知られています。したがって、これらの薬剤を使用する際は、過去の不整脈、心疾患の有無、QT延長の原因となりうる他の薬剤との併用について、詳しい問診が必要になります。

 

以上、頻度は少ないものの、発症するとその後の生活の質や生命に関わるような重い病態について紹介してきました。

 

抗生物質は、新型コロナウイルスの治療薬ではありませんし、発熱と気道症状を訴えて受診した患者さんに対して、十分な根拠のないまま抗生物質の処方が増えることにならないかとても心配しています。

 

それは、個人の健康への影響のみならず、耐性菌の蔓延という社会問題につながるからです。

 

抗生物質の使用は、どのような状況であれ、その利益と不利益のバランスをしっかりと考え、利益が不利益を上回ると考えられる場合にのみ使用すべき薬剤であることは全く変わりません。そのために、医師と患者さん双方で、必要のない抗生物質の使用をお互いに控えていく努力が求められています。

 

次回は、日本で最も汎用されている抗生物質の一つであるフルオロキノロン系薬剤(特にレボフロキサシン)の使い方を中心に考えていきたいと思います。


2020年5月13日(水)

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